ニューヨーク州司法試験(NY Bar)の受験記録 【2016年7月受験】

今更ですが、2016年7月に受験したニューヨーク州司法試験(New York State Bar Examination)について書いてみます。

NY Barでは、2016年7月受験よりUBE (Uniformed Bar Examination:統一司法試験)が採用され、それによって試験内容が若干変わりましたので、資料や情報が不足している状況です。そこで、後の受験生の方々に役立つかもしれない情報を、私の体験を中心にまとめてみようと思いました。

私が受験勉強にかけられた時間は、約40日間・300時間でした。これはスタンフォード・ロースクールの卒業タイミングが6月中旬と遅いためでもあるのですが(多くのスクールは5月中旬くらいに卒業)、あとは私の怠け癖によるものです。結果的には無事に合格することができましたが、受験直後の感触は五分五分で、再受験の覚悟もしていました。

もちろん、時間があるなら万全な準備をすべきです。特に遠方から受験する場合、負担はとても大きいですから、一度で終わるに越したことはありません。ただ、結果だけを見ると、私の経験は非常に効率的な対策であったとも言えます。そうした観点からも、何かご参考となる点があれば幸いです。

本記事は、以下の構成でお送りします。

  1. 試験の概要 2016年7月受験からの制度変更
  2. 会場の選択 州外受験生にはBuffaloが人気
  3. 予備校の選択と使い方 やはりBarBriが無難か
  4. 「日本人ノート」とは 選択肢は主に2つ
  5. その他の補助教材 Smart Bar Prep
  6. 実際の進め方 対策の重要性はMBE>MEE>MPT
  7. 試験当日とその前後
  8. 合格通知
  9. 日本人合格者の状況 2016年7月受験者のデータから

本記事は、以下のような受験生の方には、特に参考になると思います。

  • 英語があまり得意でない、または苦手である
  • 効率的に合格したい、または勉強にかけられる時間が不足している

英語が得意である方や万全な準備をして挑みたいという方にとっては、私の体験はあまり参考にならないかもしれませんが、情報自体はお役立ていただけると思います。

(170521追記) 日本人ノートその他の資料をシェアしてほしい、というお問い合わせには対応いたしかねますので、恐縮ですがご理解のほどよろしくお願いいたします。

(170629追記) 弁護士登録の手続についてまとめてみましたので、併せてご覧ください。

1.試験の概要 2016年7月受験からの制度変更

(1) NY州におけるUBEの採用

米国の法曹資格や司法試験は州ごとに分かれており、試験は2月と7月の年2回行われます。ロースクールの卒業時期は5月か6月ですので、卒業生が最初に受験するのが7月の試験です。

J.D.生(3年コース)は全州の試験を受けられますが、外国でFirst Law Degreeを得ているLL.M.生(1年コース)が、その資格だけで受験できる州は多くありません。日本人留学生の多くはNY州かカリフォルニア州の試験を受けますが、NY州が圧倒的多数といえます。

各州の試験問題については、統一化の動きがあります。約半数の州が既にUBE (Uniformed Bar Examination:統一司法試験)を採用しており、NY州も2016年7月実施の試験からこれを採用しました。ただし、採点は州単位で行われますし、合格点も州により異なります。NY州の場合、400点満点中266点(Scaled Score)以上で合格となります。

UBEの構成は以下の通りです(カッコ内の%は評価全体に占める配点比率)。このうちMBEとMPTの一部は、NY州でもUBE採用前から実施されていました。

【一日目】

  • MPT : Multistate Practice Test (20%、午前3時間)
    2問のエッセイ試験。リーガルライティング技術を見る。
  • MEE : Multistate Essay Examination (30%、午後3時間)
    6問のエッセイ試験。複数の法律分野から出題(下記参照)。

【二日目】

  • MBE : Multistate Bar Examination (50%、午前3時間・午後3時間)
    200問のマークシート試験。下記参照。

MEEとMBEの法律分野は、以下のように整理できます。より詳細な内容は、それぞれのSubject Matter Outlineの最新版に記載されています。最新版については、MBE用のホームページMEE用のホームページにそれぞれ掲載されているリンク先をご覧ください。

mbe-mee

そして、全米でのMBE平均スコア(満点は200)の推移は以下のとおりです。ロースクール卒業生が初回に受験する7月試験のほうが高いことがわかります(2月は再受験組が多数)。

mbe score
http://www.ncbex.org/publications/statistics/mbe-statistics/ より抜粋

(2) NY州における受験者・合格率の状況

公表データをもとに、以下のように整理してみました。7月受験の合格率は60~75%ですが近時は難化傾向にあり、Foreign Educated(具体的には外国でFirst Law Degreeを得て、アメリカでLL.M.を取得することで受験要件を満たした層)の合格率は概ね30%台、ということがわかります。

pass rate.png

2016年7月の受験者は10,297人で、これは2006年以来の少なさでした。うちForeign Educatedは3,005人もおり、全体の約3割を占めます。日本ではちょっと考えられない状況ですね。

NY Barは、カリフォルニア州に次いで二番目に難しいと言われるようですが、合格率が相対的に低い外国人受験生たちが、全体の合格率を下げる結果、表面上そのように見えるのかもしれません。

(3) NY州における弁護士登録の要件

(170629変更) ここに書いてあった内容は、以下の記事に移設し記載を拡充していますので、そちらをご覧ください。

ニューヨーク州弁護士登録の手続記録【2017年6月登録】

2.会場の選択 州外受験生にはBuffaloが人気

NY Barの実施都市は、NYC(マンハッタン)、White Plains、Buffalo、Albany、Saratogaの5か所です(詳細はこちら)。

しかし州外の受験生は、BuffaloかAlbanyから選択するように指示されるはずです。特に日本人受験生はBuffaloを選択する傾向にあり、受験後は少しだけタクシーを飛ばしてナイアガラの滝を観光するのがお決まりのルートとなっています。会場付近のホテルは取り合いになりますので、少しでも早いご予約を。

会場の選択タイミングなど、時期的な点について記録を残しておきます(すべて2016年)。

  • 4月1日 Bar Examの申し込み期間がスタート。初日に申し込む。
  • 6月8日 会場の選択に関するメールを受信。ただちにBuffaloを選択。
  • 6月13日 会場がBuffaloに決まった旨のメールを受信。

会場決定に先立ち、5月下旬あたりにBuffaloのホテルを探しましたが、試験会場(Buffalo Niagara Convention Center)の向かいのホテルはすでに空きなし。徒歩5分くらいのホテルを無事に予約できましたが、少しヒヤリとしました。

なお州外受験者の場合、いずれにせよ宣誓式の際に州都Albanyに行くことになります。

3.予備校の選択と使い方 やはりBarBriが無難か

日本と同様、アメリカにも司法試験予備校(Bar Prep)があります。Law Studentの人数も桁違いなので、日本より活発といってもいいでしょう。

BarBri、Themis、Kaplanが御三家という感じですが、このうちBarBriがシェアで他を圧倒しています。日本人受験生もBarBriを選ぶケースが一番多いように思います。

さて、予備校の使い方ですが、本当に人それぞれです。私は以下のような考えのもと、予備校の活用は 「ほどほど」 程度にしました。

(1) まずはMBEの法分野のインプット・・・BarBriではなく「日本人ノート」で

MBEの内容は、2015年2月にCivil Procedureが範囲に加わったことを除いては、従来からほとんど変わりません。そのため、後述の「日本人ノート」をフル活用することが可能でした。

また前記のとおり、MBEの法分野はすべてMEEの対象にもなっていますので、知識のインプットは同時に行うことができます。このMEE対策という面でも、「日本人ノート」の情報量で必要十分でした。

よって、BarBriの用意したマテリアル(講義の穴埋め式ハンドアウト、大部なアウトライン、その縮小版アウトラインと3つもあります!)は、一切読みませんでした。

また、BarBriの講義も一切視聴しませんでした。MBEの法分野はMEEでも出題されるため、講義全体に占める比率はかなり高く、この範囲を思い切って切り捨てることが大きな時間の節約に繋がりました。

なお、「日本人ノート」が存在しないCivil Procedureはどうしたのかというと、講義ハンドアウトの穴埋め箇所が既に埋まっているデータを運よく入手でき、それをノート代わりにしました。

(2) 次はMBEの演習・・・ここではBarBriが大活躍

BarBriから当初送られてくる資料の中に合計1,631問の演習問題(模試含む)があり、さらに追加で150問が逐次オンライン配布されました。そして、その全部に解答・解説がついています。

これで十分かどうかは、意見が分かれるところだと思います。過去の受験生のブログには、2,000問くらい演習することで合格安全圏に入れるとするものも散見されました。

もっとも、BarBri提供分だけでも約1,800問。時間の制約を考えると、これでも十分すぎるくらいではないかと思います。

(3) MEEのみ分野は・・・これもBarBriに頼る

MBEの対象にならない法分野の場合、「日本人ノート」は頼りになりません。なぜでしょうか。

「日本人ノート」の中心は、NY Barが現行の仕組みに変わる前の2000~2010年ころに、当時の受験生によって作られた資料です。そのため、MEEでのみ聞かれる分野については、NY州法を前提とした記述がされており、いまのMEE対策には使えないのです。

これに対し、MBEはもともと連邦レベルの法制度を前提とする試験でしたから、「日本人ノート」をそのまま使うことができます。MEEのために「New York Distinction」が別途注記されている箇所がありますが、そこを無視するだけでOKです。

そこで私は、MEEのみ分野についてはBarBriの講義を視聴して、講義ハンドアウトを自力で埋めることにしました。以後、それをノートとして復習に使うことになります。前記のとおり、BarBriのその他の資料は読みませんでした。

知識をインプットできたら、あとはひたすら演習です。BarBriは模試含め、法分野ごとに10問近くの演習問題を提供しており、そのすべてにサンプル答案がついています。分量的には十分です。

(4) MPTは・・・BarBriで十分

MPTについても「日本人ノート」がありますが、そもそもMPTはテクニックと慣れの問題が大きいといえます。よって、サンプルのヘッダーなど形式面を自分用の起案フォーマットづくりのため拝借するにとどめ、BarBriの講義を中心的に活用することにしました。

法律科目とは違い、講義ハンドアウトのようなものはありません。講義を聞き、BarBriの用意した演習問題に取り組み、その解説を聞き、再度演習、といった進め方になろうかと思います。演習問題は沢山収録されており、分量的にはまったく問題ないと思います。

もっとも、そもそも私はあまり対策をしておらず(する時間もなく)、印象が薄いというのが実態です・・・。

4.「日本人ノート」とは 選択肢は主に2つ

ここまで何度か「日本人ノート」に触れてきましたが、これは要するに、過去にNY Barを受験された方々が後進の受験を助けるために残してくれた貴重なノート類です。かつてのBarBriの講義ハンドアウトやアウトラインなどがベースになっているようです。

NY Barを受けようとする方は、おそらく先輩LL.M.生などを経由して「日本人ノート」を受け取ることでしょう。ただ、その中には様々な種類の資料が含まれていて、いったいどれを使ったらよいのか悩まれるはずです。

バリエーションは多々あるものの、もっとも代表的なものが「乾ノート改」、次に有名なのが「折原ノート」でしょう。どちらも実績のあるノートですが、「乾ノート改」は英語中心、「折原ノート」はふんだんな日本語訳を含む、という点に違いがあります。

私の場合、少しでも時間を節約したかったので「折原ノート」のみ使用しました。前記のとおり、MBE科目のうちCivil Procedure以外の7科目分のノート(Criminal LawとCriminal Procedureは別れている)です。

この選択のメリットは、知識をインプットするまでのスピードにありました。日本語のほうが早く読めますし、英語と日本語の説明がセットになっていれば、すでに知っている概念からの連想で頭にも入りやすいと思います。

もっとも、本番の試験はもちろん英語のみで行われますから、これは好みの問題といえるでしょう。英語で思考可能な方にとっては「乾ノート改」のスタイルのほうが無駄がないのかもしれません。

なお、ノートの作成時期(最終改定時期)によっては情報が古く、近年の判例や法改正が十分にカバーされていないこともあり得ます。どちらのノートも若干の改訂を経たものが出回っており、可能でしたらそれを入手されるとよいでしょう。ただ、10年前の内容であっても学習には十分かと思います。

5.その他の補助教材 Smart Bar Prep

日本の司法試験でも一部の方には使用経験があるかもしれませんが、「論証パターン」あるいは「論点ブロック」と呼ばれる資料の類は、MEEではとても力を発揮します。日本の司法試験とは違い、MEEで問われるのはシンプルな典型論点であり、学術的に込み入ったことは一切聞かれないからです。

「日本人ノート」にも、このような観点から「論点ブロック」が含まれています。もっとも、各法分野のノートと同様、この資料にはNY州法を前提に作られているという問題があり、MEE対策にはうまく使えそうにありませんでした。

そのため、問題提起・規範・定義が簡潔にまとめられた補助教材に頼ることにしました。私が実際に使用したのは、Smart Bar Prepの「Essay Prep Outline」です。

この商品のホームページにはサンプルが載っていますが、要するに論点ごとにまとめられた問題提起・規範・定義などを、過去の出題頻度を添えて順番に掲載した資料です。全部で200ページ以上ありますが、出題頻度にあわせて学習範囲を絞ることができます。

その他、私は使いませんでしたが、スタンフォードのクラスメートの間で人気だったのは「Critical Pass」という商品です。ほかにも、「Bar Exam Flashcards」などでググればいろいろと見つかると思います。

6.実際の進め方 対策の重要性はMBE>MEE>MPT

冒頭にも記しましたが、私が受験勉強にかけられた期間は約40日間です。勉強時間は15分単位で記録していましたが、実際の勉強量は試験当日を含め306.75時間でした。

これは、過去の受験生ブログから得られる情報からすると、かなり無謀でした。だいたい2か月で500~600時間かけるのが通常のようです。私は結果的に合格できたとはいえ、受験直後の印象は五分五分でしたし、体調や運次第では落第することも大いにあり得たと思っています。

ですから、下記のような余裕のない進め方をお勧めするつもりはありませんし、真似していただかないほうが良いとさえ思います。あくまで、どうしても時間が取れないという場合や、少しでも効率化した場合の参考情報としてお読みいただけますと幸いです。

(1) MBE対策 (配点比率:50%)

MBE対策は、その配点が高いことのみならず、MBE対象分野のすべてがMEE対象分野に含まれることからも、きわめて重要といえます。

勉強の基本的なサイクルは、次のとおりでした。

  1. ノートを読み、知識をインプットする。
  2. BarBriの練習問題をある程度解いて、解説を読む。
  3. ノートに、間違った点や曖昧だった点を印付きで記入する。

これを、法分野別に、一定の時間を空けて繰り返します。ノートを毎度全部を読むのは大変ですから、時間がなければ、色分けされた「間違った」マークのある個所だけを読みます。私がノート全体を再読できた回数は、分野によりますが1~3回でした。

BarBriの教材はちょうどよいことに、「Workshop」という問題集(各分野25問)、それに引き続く練習問題(各分野18問×6回分)を法分野で別けて収録しています。上記のような分野別の勉強に適しており、それだけで合計931問もこなすことができます。

ところで、最初にノートを精読するのには、相当骨が折れました。分野で分けて順次進めましたが、それだけで50時間くらい使ったのではないかと思います。苦しい作業ですが、のちのMBEの演習を通じての知識の定着が、MEE対策にもつながっていきます。

ちなみに、Real Property(不動産法)はイギリス法から継受した古めかしい概念を多々含み、日本法とまったく異なっているうえ、LLM生は在学中に触れる機会もありません。ここ大混乱に陥るのは日本人受験生に共通のようですので、ひるまず進みましょう。

受験の20日ほど前には、BarBriのMBE模試があります。本番同様、200問を6時間かけて解くというものです。これを時期的な目安としてMBE対策を進めるとよいと思います。

最終的に私が解いた問題数は、1,001問でした。

(2) MEE対策 (配点比率:30%)

前記の通り、MBE対策はMEE対策を兼ねています。

もっとも、MBEに含まれない法分野については、別途インプットを進めなければいけません。私は前記のとおり、BarBriの講義を視聴しハンドアウトを埋めてその後のノートにする、という方法を選びました。

これに実際に着手できたのは、上記MBE模試のタイミング、つまり本番20日前です。各分野の講義は2~3時間とそれほど長くありませんから、インプットすべき知識量もそれほど多くないのですが、知識の定着という意味ではもう少し前から始めるべきでした。

講義を聞いてハンドアウトを復習したら、いよいよ問題演習に取り掛かります。初めて起案をしたのが本番の11日前というひどい状況でしたが、ひとつ練習をして模範解答や採点基準と見比べることで、実際にはどのような構成で何を書けばよいかが、なんとなく見えてきます。

感触をつかんだら、次は前記のEssay Prep Outlineを確認しました。200ページを超えるアウトラインを全部を読む気にはなれなかったので、出題頻度の高いものに印をつけたうえで、その範囲のみを精読し、とにかくできるだけ頭に入れる(願わくば暗記する)ように努めました。これは本番直前まで繰り返し続けました。

起案の演習も続けなければいけません。BarBriはたくさんの演習問題を提供してくれますので、それを解くわけですが、すぐに時間が足りないことに気が付き、30分かけてフル起案するのではなく10分程度で答案構成をして答え合わせをする、という作業に切り替えていきました。それでも時間が足りず、直前期には問題を読み、頭でイメージを浮かべたらすぐに模範解答を読む、という作業をするにとどめました。

結局、なんとか模範解答まで目を通せたのは、各科目の4問目まででした。BarBriの推奨学習スケジュールに含まれているのがそこまでだったからです。相対評価の試験である以上、他の多くの受験生が触れているであろう論点に触れておくことが大事だと考えました。

最終局面では、ノートやEssay Prep Outlineをもとに法分野ごとに1ページのメモを作成し、できるだけ暗記するように努めました。分量を限ったのは、要点を絞って何度も読めるようにするためと、会場付近まで持ち込んで廃棄できるようにするためです。

(3) MPT対策 (配点比率:20%)

NY州がUBEを採用する前は、MPTの配点比率は全体の10%しかなく、対策面では無視されることが多かったようです。しかし現在は全体の2割を占めるに至り、無視するわけにもいきません。

もっとも、幸運なことにMPTでは、事前に覚えなければならないことがほとんどありません。MPTは、その場で示された情報のみを根拠としてリーガルライティングする能力を見る試験だからです。

必要なのは、答案を書くための「作法」を身に着けることです。私はBarBriの講義に頼りつつ、「日本人ノート」に載っていたサンプルをもとに、バリエーション(上司へのメモ、準備書面など)別に答案のテンプレートを作成しました。

そのテンプレートを頭に入れつつBarBriの練習問題を解くわけですが、あまり時間が取れず、ちゃんと起案できたのは2本だけでした。模範答案をいくつか読んで相場観をつかんだら、あとはこれまでの弁護士業務の感覚で対応できると思うことにしました。

結局、全体の勉強時間のうち、MPTに割いた時間は1割に満たなかったと思います(20時間くらい)。他の科目と比べ勉強時間が得点上昇に結び付きにくいため、最低限の対策・準備をしておけば足りるという印象です。

7.試験当日とその前後

(1) 前々日にBuffalo入り

アメリカの国内線はきちんと飛ばないことが多いため、試験の二日前にBuffalo入りする予定を組みました。実際、シカゴ・オヘア空港からの乗り換え便が雷雨で4時間も遅れ、ホテルに到着したのは午前4時半。カリフォルニアからだと時差も3時間あったので、余裕をみたのは正解でした。

一夜明けて会場付近のホテルに移動すると、そこには受験生が溢れていました。特に面白いこともなく、ひたすら最後の悪あがきをします。写真のデスクにあるのは、科目別のノートをおさめたファイルと、勉強の記録をつけているPC。

hotel-desk

(2) 試験1日目 緊張のMPT、祈りのMEE

そして本番を迎えてしまいました。

会場入り後、受験用の持ち込みPCと試験ソフト(その名も ExamSoft )が起動することを確認してほっと一息。メモの類は一切持ち込めませんので、特にできることもなく、隣になった地元Buffalo Law Schoolの学生さんと談笑して緊張をほぐしました。

季節は夏なのに、会場は2日間ともかなり寒かったです。あとで脱ぐことは簡単ですから、防寒用具は必須でしょう。

午前はMPT。もっとも対策していない試験ですが、出題内容がわからず死亡、ということはないので心落ち着けて受験できました。2問ありますから、どちらかに時間をかけすぎないように注意。

お昼休み中は、試験会場から退出させられます。天気がよかったので、受験生はみな道路上にたむろして食事をとっていました。試験会場前の道路は警察によって封鎖。

午後はMEE。一番心配な試験であり、特に苦手意識の強いReal Property(不動産法)やWills(相続法)が出ないように祈っていましたが、最初に各出題の法分野を確認する時間的余裕などありません。一問30分、を墨守してひたすら起案しました。無事に祈りが通じたのか、これらの分野からの出題はありませんでした。

解答に含まれるワード数は、画面上にリアルタイムで表示されます。私の答案の場合、6問いずれも1,000 wordsには達していませんでした。これはアメリカ人受験生の標準的な分量と比べると大幅に不足しているようで、BarBriのエッセイ問題集の模範解答と比べても明らかに足りませんが、結果的にはそれでも大丈夫でした。

ところで、初日の会場入りの際は、本人確認のあと腕に以下のようなバンドを巻かれます。これは二日目の試験が終わるまでつけておかねばならず、夜は囚人のような気分で勉強することになりました。

arm-tag.jpg

(3) 試験2日目 ひたすら作業のMBE

MPTとMEEを終わらせてしまえば、あとは大きな失敗をすることはありません。これまで頭に詰め込んだ知識をもとに、午前3時間・午後3時間、ひたすら作業することだけを考えます。

MBEは時間との闘いです。本番20日前のBarBri模試では時間が足りず、200問のうち10問くらいを残してしまったので、とにかく30分17問のペースを意識して回答を進めました。

もう二度と同じ試験対策はしたくない・・・という思いが集中力を高めたのか、本番はなんとか時間内に全問解き終わることができました。

試験は無事終了し、さぁいつになったら部屋から出られるのか、と皆そわそわし始めます。答案や問題がすべて回収された後、最後の確認作業が続く間、多くの受験生が席を離れ、会場出口付近のエリアに集結し始めました。このあたりの統制が取れないのがアメリカらしいなと笑ってしまいました。

そして、退出許可を告げるアナウンスと、沸き起こる拍手。試験勉強という苦行からの解放感と、何かをやり遂げたという不思議な高揚感に包まれながら、足早に試験会場を退出したのでした。

(4) 試験のあと

試験当日の夜は、打ち上げ兼、クラスメートの誕生会。二次会は大学時代のサークルの先輩と、試験会場向かいのホテルで久しぶりの再会を祝して一杯。たまたま隣のテーブルで飲んでいたUCバークレーの友人たちとも、お互いを慰労。

でも飲みすぎず。翌日が重要だからです。

翌朝からは、Buffalo受験の最大のポイント、ナイアガラへ。タクシーを使えばホテルから40分くらいで到着でき、そこから徒歩でレインボー・ブリッジを渡り、カナダに入国できます。良いご褒美になりました。

niagara-falls.jpg

この写真は、実はアメリカ側から撮影したもの(向こう側にカナダのカジノが見えます)。中国人のクラスメートによれば、中国人はビザの都合上、カナダとの国境を越えてしまうと再入国が大変らしく、アメリカ側からのみ観光するとのことでした。

8.合格通知

NY Barの場合、合格発表のタイミングは事前に公表されません。過去の例をみると、だいたい10月末~11月頭くらいが見込まれていましたので、時期が近付くにつれて不安が募りました。

そして予想より少しだけ早く、2016年10月27日の夜11時ころ、「July 2016 Bar Examination Results」と題するメールが届きました。

恐る恐る添付ファイルを開くと、確かにこう書かれていました。

The New York State Board of Law Examiners congratulates you on passing the New York State bar examination held on July 26-27, 2016.

必死の対策が報われた瞬間でした。

翌日に公表されたプレスリリースはこちら。全体合格率は前年の61%から64%に回復し、Foreign Educatedの合格率も、33%から37%まで改善していました。

9.日本人合格者の状況 2016年7月受験者のデータから

2016年7月受験組の有志が、ロースクール間の横のつながりを活かして日本人合格者のデータを集めており、私もデータ集めに参加しています。以下のデータが収集されました。

  • 合計点
  • MBEの点数
  • 勉強開始時期
  • MBE問題演習数
  • BarBri模試の点数
  • TOEFLの点数
  • 日本の法曹資格の有無

結果として29人分の情報が集まったのですが、おそらく全員が法曹資格あり、という少し偏ったデータになってしまいました・・・。

(1) 俗説 「日本人受験生はMBEで稼ぐことによって合格する」 は本当か?

日本人はエッセイが苦手だけれども記憶に頼るMBEは比較的得意なので、MBEを得点源にして合格するのが正しい戦術だ、という意見を聞くことがあります。これは本当なのでしょうか。

合格点の平均は298.1点(400点満点)、うちMBEの平均は154.4点(200点満点)でした。つまりエッセイパート(MPT+MEE)の平均は143.7点となり、MBEの得点のほうが比較的高いことになります。

これに対し、受験者全体の傾向がどうなっているかというと、残念ながらデータがありません。MBEの統計データは前記のとおり公開されているのですが、合格者に限ったものではありませんし、エッセイパートや合計点に関するデータは未公表です。

もっとも、MBEとエッセイパートの配点はともに200点ですし、いずれも相対評価です。その中で実際の点数に10点以上の差がついたということは、少なくとも上記29名に関してはMBEのほうが得意、という一応の理解ができると思います。俗説は正しいかもしれませんね。

(2) 英語が得意なほうが点数がよい?

留学出願時のTOEFLスコアと、NY Bar受験時の英語力はイコールではないと思いますが、正の相関はあるでしょう。では、上記データを見てみます。

TOEFLの点数は、未申告1名を除くと、95点~119点(!?)と幅広に分布しています。

ここは特に英語に不安のある方の関心事かと思います。そこで、まず100点未満だった7名の点数を見てみますと、合計点の平均は291.4点でした。全体平均である298.1点からは、少し落ちる印象ですね。

もちろん、これは不合格者を含んだ全体の傾向をみられるデータセットではありませんし、個別にみていくと、1名は320点近くを獲得して頭一つ抜けているなどしており、英語の得意不得意とどこまで強い関係があるか読み取るのは困難でした。

ここでは、「直観に反するようなデータは収集されなかった」というにとどめたいと思います。実感としては、英語力はとても大切だったと思いますけれども・・・(自戒の念を込めて)。

(3) 勉強はいつ始めているのか?

これも人それぞれでした。最も早くて2月の時点から「日本人ノート」を読み始めた方もいれば、最も遅いほうでは6月中旬スタートが3人(私を含む)もいました。

マジョリティは5月下旬スタートでした。多数のロースクールが卒業式を迎える5月中旬のあと、一休みしてから勉強を始めるというパターンでしょうか。これなら2か月間とることができますね。

(4) MBEの問題演習はどれくらいこなしているのか?

かなりバラバラでした。「0問」という極端な回答もあった一方、約3,000問という強者も。

「不明」とした2名を除くと、1,500~2,000問くらいが一般的な演習量で、1,000問前後もそれなりにいる、という印象です。

なお、2,000問以上演習したという9人のMBEスコアの平均は160点を超えており、練習量が如実にスコアに反映されることがわかります。時間さえあれば、とにかく早めに勉強を始めてMBE問題をたくさん解くのが合格への近道といえるでしょう。

BarBriのMBE模試は、受験している方が多数でした。本番でこの模試よりも低い点数を取った方は皆無でしたが、ただでさえ本番のScaled Scoreは素点(正答数)よりも高くなりますので、納得の結果です。

(終)

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