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コラム『カクテル “Singapore Sling” とシンガポール小史』

当事務所アジア・プラクティスグループの月刊ニュースレター「MHM Asian Legal Insights」11月号にて、『シンガポール・スリング』についてコラム記事を書きましたので、全文転載しておきます。

MHM Asian Legal Insights バックナンバーはこちら:
http://www.mhmjapan.com/ja/newsletters/asian-legal-insights/

コラム『カクテル “Singapore Sling” とシンガポール小史』

「シンガポール料理」にはピンとこない方も多いかもしれませんが、カクテル “Singapore Sling” の名前を聞いたことがある方は、きっと多いに違いありません。国を代表するこのカクテルは、同国一の高級ホテル Raffles Hotel 内のバーラウンジ “LONG BAR” 発祥の看板メニューとして知られています。

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Singapore Sling の誕生は、約100年前である1915年に遡ります。LONG BAR のバーテンダーであった厳崇文(Ngiam Tong Boon)が女性向けに発明した、甘さを強調したカクテルでした。もっとも当時は人気を博すこともなく、Ngiam も数年で退職。1930年代にはメニューからも消えてしまったといわれています。

100年前といえばシンガポールの建国前ですが、同地は14世紀末から、サンスクリット語で「ライオンの町」を意味する「シンガプーラ」(現公用語の一つであるマレー語の表記もSingapura!)の名前で呼ばれるようになり、その後のイギリス統治時代には、イギリス式発音で「シンガポール」と呼ばれるようになりました。そのため当時からカクテルに「シンガポール」の名を冠しているわけですね。

イギリスによる統治は、約200年前である1819年、東インド会社書記官が当時人口わずか150人余りであった同地に降り立ったことをきっかけとして始まりますが、この書記官こそがThomas Raffles。Raffles Hotel の名称は彼にちなんだものです。以後イギリスの治世が続きますが、1942年からの日本軍によるシンガポール占領時には Raffles Hotel も接収され、陸軍将校の宿泊施設として日本風のサービスを提供するようになります。いよいよ Singapore Sling の命脈は尽きたかに見えました。

しかし戦後、Ngiam 氏の甥である Robert Ngiam が同ホテルに入社すると、叔父のオリジナルレシピを偶然にも発見。試行錯誤の末、シンガポール独立後の1970年代にはホテルのバー責任者として、現在知られている南国風スタイルの Singapore Sling を再発表。これが世界中に受け入れられ、国を代表するカクテルとしての地位を不動のものとしました。LONG BAR が現在「オリジナル」と称している Singapore Sling はこの再発明されたレシピで作られており、真の意味でのオリジナルではないようですが、むしろそのエピソードは、独立を経て国の在り様を大きく変え、世界随一の都市圏へと飛躍的な進歩を遂げた同国を象徴しているように感じます。

以上が Singapore Sling の由来と歴史ですが、今回は取材と称して、実際に Raffles Hotel まで行ってまいりました。冒頭の写真はそのときに撮影しましたが、左の袋の中身はピーナッツ。同店ではピーナッツの殻をその場でトスしてよいとされており、床には大量の殻が豪快に散らばっていました(名物なので敢えて放置している)。コロニアル様式の建物、恭しく振る舞う給仕たちに囲まれて楽しむ Singapore Sling。建国以前から続く歴史と伝統を、少しは体感できた気がします。

ところで、実は LONG BAR は長い改装工事に入っており、写真は同ホテル内のビリヤードバーにて臨時で提供されているもの。12月中旬からはホテル全館が改装のため休業に入り、2018年後半のリニューアルオープンまでは、本家 Singapore Sling はしばしお預けとなります。いまの雰囲気を楽しみたい方は、ぜひお早めに!

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【解説】ECサービス運営に関する最新の法務トピック【会社法務A2Z・2017年9月号掲載】

EC(イーコマース)サービスの運営に関する近時の法務トピックをいくつかピックアップして解説した記事を執筆しました。会社法務A2Zの2017年9月号(第一法規)に掲載されています。

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以下、冒頭部分と目次のみ紹介いたします。

今世紀に入り、インターネットを舞台とした消費活動は拡大の一途をたどった。個別企業の通販サイト、次いで楽天市場やアマゾンといった巨大なEC(電子商取引)サイトの利用が一般化し、さらにはスマートフォンの普及により、万人が気軽にECサイト・ECアプリを通じて売買を楽しめる環境が実現されつつある。

法や政策もこれに対応した変化を遂げており、例えば本年6月3日には消費者契約法の改正法が施行されたほか、同月5日には経済産業省が例年改訂する「電子商取引及び情報材取引等に関する準則(以下「取引準則」という。)の最新版が公表されている。

本稿では、ECサイトおよびECアプリにより提供されるサービスを「ECサービス」と総称し、その運営に関する最新の法務トピックを紹介する。

1 「未成年者契約」というリスクの再認識

(1) 未成年者の契約取消権
(2) 取引準則における記述の変化
(3) スマホゲームへの注目

2 個人間取引の拡大 ― ユーザーの行為をどう規律するか

(1) フリマアプリの隆盛
(2) プラットフォーマーの法的責任
(3) 利用規約の実務

3 消費者契約法改正の影響

4 今後を占うヒント OECD理事会勧告

ニューヨーク州弁護士登録の手続記録【2017年6月登録】

先日公開した以下の記事の続編です。今回は合格後の登録手続について、私の体験を中心に少し詳しくまとめてみました。

ニューヨーク州司法試験(NY Bar)の受験記録 【2016年7月受験】

先に注意していただきたい点を二つ。

  • あくまで、わたくし個人の体験に基づく記事です。実際に登録手続をされる場合は、本記事はあくまで参考程度としていただき、最新の情報をご自身でお確かめください。
  • わたくしの申請先は、3rd Judicial Departmentでした。ニューヨーク州在住者の場合は、1st Departmentへの申請となり、必要書類の扱いが異なる可能性があるほか、インタビュー・宣誓式のスケジュールが異なりますので、あまり参考にならないかもしれません。

本記事は、以下の構成でお送りします。

  1. 全体的なスケジュール感をイメージする
  2. 弁護士登録の要件
  3. 提出すべき書類
  4. 宣誓式の日付指定(及びその変更)とその後の手続
  5. 州都Albanyでのインタビュー・宣誓式

これからニューヨーク州弁護士になろうとする方にとって、少しでもお役に立つ情報となれば幸いです。

(170731追記) 学部が法学部である場合の扱い、必要書類の一部について若干の追記を行いました。 続きを読む

ニューヨーク州司法試験(NY Bar)の受験記録 【2016年7月受験】

今更ですが、2016年7月に受験したニューヨーク州司法試験(New York State Bar Examination)について書いてみます。

NY Barでは、2016年7月受験よりUBE (Uniformed Bar Examination:統一司法試験)が採用され、それによって試験内容が若干変わりましたので、資料や情報が不足している状況です。そこで、後の受験生の方々に役立つかもしれない情報を、私の体験を中心にまとめてみようと思いました。

私が受験勉強にかけられた時間は、約40日間・300時間でした。これはスタンフォード・ロースクールの卒業タイミングが6月中旬と遅いためでもあるのですが(多くのスクールは5月中旬くらいに卒業)、あとは私の怠け癖によるものです。結果的には無事に合格することができましたが、受験直後の感触は五分五分で、再受験の覚悟もしていました。

もちろん、時間があるなら万全な準備をすべきです。特に遠方から受験する場合、負担はとても大きいですから、一度で終わるに越したことはありません。ただ、結果だけを見ると、私の経験は非常に効率的な対策であったとも言えます。そうした観点からも、何かご参考となる点があれば幸いです。

本記事は、以下の構成でお送りします。

  1. 試験の概要 2016年7月受験からの制度変更
  2. 会場の選択 州外受験生にはBuffaloが人気
  3. 予備校の選択と使い方 やはりBarBriが無難か
  4. 「日本人ノート」とは 選択肢は主に2つ
  5. その他の補助教材 Smart Bar Prep
  6. 実際の進め方 対策の重要性はMBE>MEE>MPT
  7. 試験当日とその前後
  8. 合格通知
  9. 日本人合格者の状況 2016年7月受験者のデータから

本記事は、以下のような受験生の方には、特に参考になると思います。

  • 英語があまり得意でない、または苦手である
  • 効率的に合格したい、または勉強にかけられる時間が不足している

英語が得意である方や万全な準備をして挑みたいという方にとっては、私の体験はあまり参考にならないかもしれませんが、情報自体はお役立ていただけると思います。

(170521追記) 日本人ノートその他の資料をシェアしてほしい、というお問い合わせには対応いたしかねますので、恐縮ですがご理解のほどよろしくお願いいたします。

(170629追記) 弁護士登録の手続についてまとめてみましたので、併せてご覧ください。 続きを読む

WIPO公表の「World Intellectual Property Indicators 2016」について雑感

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標記資料(WIPOホームページ参照)について雑感をあれこれツイートしたので、まとめて紹介。ツイートを貼り付けるだけだと少々見づらいので、2つ目以降はテーマ別に箇条書きにしておきました。

なお、この資料はざっくりいうと、WIPO(世界知的所有権機関)が、各国・地域の特許オフィスにおける特許・商標等の出願・登録の状況等について、統計データを整理したものです。毎年この時期に、前年分のデータが公表されています。当事務所のニュースレターの一つ「Client Alert」でも、毎年わたくしが記事にしていました。

特許権について

  • 興味深い点をいくつか。PDF22枚目をみると、中国での出願数は突出しているものの、非居住者による出願はまだ米国向けが圧倒的に多い。というか、米国での出願は、過半数がNon-residentによるもの。
  • 24枚目には、5極特許オフィス(日米欧中韓)の1883年からの特許出願数推移が折れ線グラフでまとめられている。日本だけが尻すぼみであり、これは見ていて悲しい。
  • 45枚目によれば、2010~13年の4年間での出願数トップ企業はパナソニックの34,352件、上位には日本企業がずらり。しかし2015年のPCT出願数は(61枚目)ファーウェイの3,898件が突出。
  • 50枚目には、技術分野別の出願数推移がまとめられている。2005年から2014年までの間に最も出願数が成長した分野はFood Chemistryで、10.7%の成長率。
  • 62枚目のA50は、PCT出願の出願人所属国別の件数。トップは米国の57,121件で、日本44,053件、中国29,837件と続く。中国企業は、まずは国内出願に熱心だが、日本は遠からず抜かれそう。
  • 65枚目のA55は、実用新案の出願数について。以前からの傾向であるが、中国だけが突出しており、他国ではほとんど用いられていない(桁が2つ違う)。

商標権について

  • 商標についても見てみましょう。PDF77枚目のB10によれば、中国が2位の米国を大きく引き離して、けた違いの出願数であることがわかります。その数、米国の約52万件に対し、280万件超。我が国は35万件弱。
  • 100枚目のB31によれば、2015年のある時点での登録商標数は、中国が1,000万件超で、米国の約5倍です。我が国も米国と同じくらいで、3位の約180万件。

意匠権について

  • 意匠権はどうでしょう。PDFの115枚目によれば、これも中国が突出しています。我が国は1980年ころをピークに下降線。
  • 119枚目をみると、特許や商標の傾向とは異なり、近年のグローバルでの出願数は伸び悩む。産業の、モノからサービスへの移行を反映したものでしょうか。
  • ハーグ条約に基づく意匠出願の企業別数(PDF134枚目)は、サムスンが2位にダブルスコアの1,132件。中国企業は見当たらず。特許についてはPCT出願のトップがファーウェイでしたが、これとは傾向が異なるようです。

余談:ちょっと特殊なCCライセンス(バージョン3.0ですが)

  • 余談ですがこのWIPOレポート、統計テーブル部分はCCライセンス(3.0 BY-NC-ND IGO)付き。Intergovernmental Organization、すなわち条約等に根拠を有する組織向けに用意されたライセンスです。
  • かなりマニアックですが、CC本部による、IGO向けCCライセンスに関する説明(英語です)はこちら。「3.0 BY-NC-ND IGO」のリーガルコード(詳細なライセンス条項)はこちら

【審判】 商標無効の請求が成り立たないとの審決を獲得した公表事例

(2014年2月7日の審決です)

第三者から商標無効の審判申立てを受けたレストラン情報提供サービス企業を小職らが代理した審判事件で、請求が成り立たないとする審決が公表されていますので、メモしておきます。

本件で無効審判申立ての対象とされた登録商標は、「ぐるなびギフトカード 全国共通お食事券」の標準文字商標(第5459425号)です。申立人は、以下の諸点を無効理由として主張しましたが、いずれも否定されました。

  • 商標法4条1項15号 (他人の商品・役務との混同のおそれ)
  • 同10号 (他人の周知商標との同一・類似の商標の、同一類似の商品・役務への使用)
  • 同16号 (商品・役務の質を誤認するおそれ)
  • 同19号 (他人の周知商標との同一・類似の商標の、不正目的での使用)
  • 同7号 (公序良俗違反のおそれ)

審判番号 無効2013-890011

結  論

本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。

具体的な審決については、以下のリンク先をご覧ください。

http://shohyo.shinketsu.jp/decision/tm/view/ViewDecision.do?number=1299554

【新著】Google Books 裁判資料の分析とその評価―ナショナルアーカイブはどう創られるか

(2016年10月29日追記 : 記事末尾に実物の書影を追加しました。)
(2017年1月16日追記 : 上野達弘教授による書評について追記しました。)

新著『Google Books 裁判資料の分析とその評価―ナショナルアーカイブはどう創られるか』商事法務さんより近日中に刊行されます。法律雑誌「NBL」で逐次掲載してきた論文等をまとめなおし、若干の分析や資料を追加したものとなります。当事務所の松田政行弁護士との共著です。

isbn978-4-7857-2474-0

私にとっては、三冊目の著書となります。2012年の『デジタルコンテンツ法制』(朝日新聞出版。生貝直人東大客員准教授との共著)、2014年の『インターネットビジネスの著作権とルール』(CRIC。福井健策弁護士、杉本誠司ニワンゴ社長、池村聡弁護士との共著)、そして本書。

Google Books訴訟自体は、本ホームページに全文を転載しました記事でも解説しましたとおり、昨年の控訴審判決でほぼケリがつき、今年4月の最高裁決定で完全に終結しています。そのため、本書が扱う内容は特に新規なものではありません。

もっとも、原被告が当初公表した和解案は、Googleが電子化した全世界の書籍を、個々の著作権者の具体的なアクションによらず広範に利用することを可能としうる、きわめて意欲的・挑戦的な内容でした。これを日本語で精緻に解説したものは他になく、今でもその価値は高いと自負しております。実際、本出版のために全記事を読み返しましたが、最も読み応えがあるのは初期のものでした。

思い返せば、私は本件のクラスアクション和解案が全世界的な話題となった2009年1月ころに弁護士として執務を開始しましたが、その直後に複雑怪奇な上記和解案と格闘することとなりました。日本書籍出版協会向けの解説講演(4月)と、NBL誌への執筆(5月)をすることとなったためです。それ以来、結局7年にも亘って本件を追い続けることとなりました。

その間、本件への政府としての対応を検討する必要から経済産業省への出向(2009年9月~2010年3月)を経験し、それを足掛かりとして様々な経験を積むこととなります。本件が私の最初期のキャリア形成に大きな影響を与えた事件であることに疑いはありません。奇しくも私の米国留学中に本件が終結を迎え、本書の出版に至ったことには、たいへん感慨深い思いがいたします。

公式には発売日が11月10日となっていますが、おそらく11月頭ころには手に入るのではないかと思います。アマゾンでも予約できますので、もしよろしければお手に取っていただければと思います。

[追記]大変ありがたいことに、早稲田大学の上野達弘教授から、NBL 2017年1月15日号 (1090号) 88頁にて書評を賜りました。一部抜粋させていただきます。

「本書は、本訴訟に関して他の追随を許さない網羅的資料として将来に残る価値を有することはもちろん、ナショナルアーカイブ構想に関しても、本訴訟の研究成果を踏まえた説得的かつ具体的なイメージを発信するものとなっている。昨今、日本では、米国法上のフェアユース規定に示唆を受けつつ柔軟な権利制限規定のあり方が議論されており、Google Booksのような所在検索サービスについても立法論が検討されている。また、ナショナルアーカイブ構想についても近時さまざまな動きが見られるところである。このような状況においてタイミングよく本書が上梓されたことは慶賀に値することであり、幅広い関係者にとって必携の書と言えよう。」

2016-10-29-22-43-37