NFTと著作権 – アートNFTのケーススタディ

(記事「NFTの法的論点」の関連記事です。)

本記事は、小職が同僚とともに当事務所ニュースレターにて2021年7月末に配信した記事「NFT(ノン・ファンジブル・トークン)と著作権~アートNFTを中心に~」を、よりご覧いただきやすいウェブ記事形式にて、ほぼ内容そのままお届けするものです。

下記は最近使った講演資料の抜粋です。こうした「微妙な関係」を、ケースを交えながら解説しています。

NFTに関しては、本BLOGにて2021年4月に『NFTの法的論点』を公表し、随時更新中です。著作権に限らず広く論点を網羅していますので、そちらもご覧ください。


NFTと著作権 – アートNFTのケーススタディ

目次
I. はじめに
II. アートNFT総論
III. ケーススタディ
IV. おわりに

弁護士 増田 雅史 Twitter
弁護士 古市 啓  Twitter

I. はじめに

昨今、デジタルアートの分野を中心に、ブロックチェーン技術を活用した「NFT」の取引が話題となっています。

2021年3月には、デジタルアーティストBeepleの「Everydays – The First 5000 Days」というデジタルコラージュ作品のNFTが、オークションハウスChristie’sにおいて約75億円で落札され、世界的な話題をさらいました。その後も、Twitter創業者ジャック・ドーシー氏による自身初のツイートのNFTが、NFTマーケットプレイスValuablesにおいて約3億円で落札されるなど、NFTに関する話題に事欠かない状況が続いています。

NFTとは、「Non-Fungible Token」(非代替性トークン)の略です。これはビットコイン等に用いられているブロックチェーン技術を利用した「デジタルトークン」の一種であり、疑似的に「デジタル所有権」を実現することを可能としたツールであると評価する向きもあります。しかし、実際にどのような仕組みであるかは十分に知られておらず、NFTに関する法律実務も確立されているとはいいがたい状況にあります。

本稿では、アート作品に関するNFTを中心的な題材とし、特に著作権法的な側面に着目しつつ解説を試みます。

1.NFTとは

「NFT」について、法令上の又は確立された定義は存在しないものの、一般的には、ブロックチェーン上で発行される代替可能性のないトークン、すなわち、各トークンに独自の「個性」(属性や情報)が付与され、他のトークンと区別可能なものを指します。

本記事で中心的に取り扱う「アートNFT」について言えば、「個性」のあるアート作品と関連付けられていて(この「関連付け」が曲者なのですが、それについても後述します。)、その数を増やしたりできない=唯一性のある仕組みであることこそが、そのアートNFTを「代替可能性がない」トークンたらしめる要素であるといえます。この非代替性を利用し、とりわけ形のないデジタルアート作品について、それと関連付けた(通常1つの)NFTを発行し売買することにより、あたかも物理的に存在するアート作品のように唯一性のある存在として取引する、というのがアートNFTの大まかなコンセプトです。

これに対して、「代替可能性がある」(=ファンジブルな)トークンの代表格であるビットコイン(BTC)やイーサ(ETH)等の仮想通貨(暗号資産)は、ブロックチェーン上にその存在が記録される点ではNFTと同様であるものの、それ自体は数量的に把握され、容易に分割でき、それぞれに個性がありません(例えば1ビットコインは0.5ビットコインずつに分けることができますし、他の1ビットコインとも個性による区別なく同じように用いられます。)。

2.NFTのユースケース・市場規模

NFTのユースケースとして当初知られたものは、2017年に登場した「CryptoKitties」というゲームです。これは、イーサリアム・ブロックチェーン上の猫のデータ(仮想猫)を収集し、繁殖し、売買し、交換するというゲームなのですが、それぞれの仮想猫は複製や分割ができない固有のトークンであり、ゲームプレイヤーはイーサを用いて仮想猫を売買することができるというものです。こうしたNFTを活用したゲームは、ブロックチェーンゲームと呼ばれることがあります。ブロックチェーンゲーム自体は、その後も順調に事例を増やしており、日本国内においても複数の事例が存在します。

他方で、近時はアート分野でのNFTの活用が拡大しており、取引金額も増加しています。冒頭で述べた約75億円のBeeple作品はその代表例ですが、国内においても、VR(Virtual Reality:仮想現実)アーティストせきぐちあいみ氏のVR作品「Alternate dimension 幻想絢爛」のNFTが、NFTマーケットプレイスOpenSeaにおいて約1,300万円で落札され、注目を浴びました。

こうした象徴的な事例を含め、NFTに関する取引の市場規模も拡大しています。例えば、前記OpenSeaにおける売上高は、2021年2月以降に急上昇し、同年3月には約1億5,000万ドルを記録しました。また、NBA選手のハイライト動画をデジタルカード(デジタルコレクティブ)としたNFTのカード収集ゲーム「NBA Top Shot」では、同年1月の売上高は1億8,730万ドルに達し、NBA選手レブロン・ジェームズのデジタルカードが20万8,000ドル(約2,270万円)で販売されるなど話題となりました。

(補足)2021年同年8月の月次取引額は、米国時間8月22日で既に15億ドルに達しています。

こうした社会状況を受け、NFT事業に参入することを表明する企業は足元で増加しており、その顔触れも、広告会社、出版社、エンターテインメント会社、ファッションブランドなど広がりを見せています。

3.NFTの技術・特徴

こうしたNFTビジネスが脚光を浴びている背景には、NFTが持つ機能や、それによって実現できる世界に対する期待があるといえます。

NFTは、イーサリアム・ブロックチェーン上での取扱いが可能な、ERC721やERC1155といったNFT用の規格に準拠したトークンとして発行されるのが一般的です。

ERC(Ethereum Request for Comments)とは、イーサリアム・ブロックチェーン上の開発に関する技術的な共通規格を指します。NFTの発行に用いられるブロックチェーンはイーサリアムに限らず、Polygon、Polkadot、Flow、WAX、Cosmosといった他のブロックチェーンを活用する例も多く見られます。

これらの規格では、トークンごとに固有のIDを設定することで代替不可能性を確保できる上、NFT固有の情報をメタデータとして併せて記録する方法も定義されているため、その活用により、外部サーバ等に保存された動画等のリッチコンテンツを当該NFTと紐づけ取得してくることも可能です。

NFTのもう一つの重要な特徴は、ブロックチェーン上で記録され、移転できることです。これによりNFTを容易に売買することが可能となり、暗号資産交換所のように、NFTの発行やその後の取引を行うことができるプラットフォーム(NFTプラットフォーム)が発達しました。

更に、NFTが発行者から最初の取得者に移転した以後、当該NFTが転々流通する都度、その取引金額の一部を自動的に最初のNFT発行者に還元可能な仕組みを作れることも、NFTの特徴の一つとして言われています。一般的に、アーティストは、自らのアート作品を最初に第三者に譲渡する際にはその対価を得ることができますが、少なくとも我が国においては、その後の転売等に際しては利益を得ることができず、例え当該作品の価値が事後的に上昇した場合でも、アーティストが当該価値上昇の利益を享受できません。NFTはこうした問題を解決することができると言われますが、これはNFTに当然に備わった特質というわけではなく、後述のとおり難点もあります。

Ⅱ. アートNFT総論

上記Ⅰ.ではNFT自体について概略を説明しましたが、本節では、そこで示された技術・特徴を持つNFTやその取引に関して考えられる法的論点について、取引が活発化しているデジタルアートに関するNFTを特に取り上げ、もっぱら著作権法の観点から総論的に解説します。

以下、対象となるアート作品が著作物に該当することを前提として、議論を進めます。

1.「NFTアート」と「アートNFT」の概念整理

法的論点の検討に入る前に、概念整理をしておきます。

一般的に使われることの多い用語は「NFTアート」ですが、この用語のもとに議論される対象は、①NFT化の客体である(デジタル)アート作品と、②NFT化した結果として発行されるトークン(NFT)とに大別されます。法的にはこれらを、②(トークン)のブロックチェーン上での発行及び流通その他の変更が、①(アート作品)に関する権利・利益その他の便益にどういった影響・効果をもたらすか、という形で分解して議論する必要があることから、本ニュースレターでは、次のように用語の使い分けをしています。

アートNFT
(デジタル)アート作品をNFT化した当該トークンであって、ブロックチェーン上で実際にやりとりされるものを指します。上記Beepleの事例では、オークションにおいて直接の取引対象とされたNFTがこれに該当します。

NFTアート
NFTの取引を通じて扱われる(デジタル)アート作品を指します。通常、ブロックチェーン上で作品それ自体が記録され流通するわけではなく、よってアートNFTとは区別されます。上記Beepleの事例では、「Everydays – The First 5000 Days」というデジタルアート作品それ自体がこれに該当します。

上記でも触れましたが、通常、アート作品自体が直接ブロックチェーン上に記録されることはありません。これは、ブロックチェーン上に大きなデータを記録することが現実的ではないことに拠ります(分散型ストレージであるIPFSを利用するなど、何らかの形でブロックチェーン外にコンテンツのデータを保管することとなります。)。

IPFS(InterPlanetary File System)は、Protocol Labsが開発・提唱するピアツーピア(P2P)型の分散型ファイルシステムであり、特定のサーバに依存せずにコンテンツを保持することができる点に特徴があるとされています。上記のBeepleによる作品も、そのデジタルデータはIPFSのネットワーク上に保管されており、誰でもダウンロードが可能です。

そのため、小さなドット絵などがNFT化の対象であるなど、コンテンツ自体をトークンの内容として記録することが可能であるような例外的な場合を除いて、「NFTアート」と「アートNFT」とは一致しないこととなります。そしてこのように両者が一致しない場合には、アート作品とNFTとをどう関連づけるか(NFTの取引を通じてアートを取引していると言える法的な状況をどう創出するか)が大きな課題となります。

2.アートNFTの正体

では、その「アートNFT」や、それを保有し取引をすることは、法的にはどのような意味を有することとなるでしょうか。NFT自体、法的な定義は存在しないため、その実態を観察したうえでの整理が必要となります。

(1)利用規約におけるアートNFTの取扱い

まず、NFTの発行や取引の場として用いられることが多い、いわゆるNFTマーケットプレイスの利用規約(Terms of Use)等を見ますと、そこでは通常、(アート)NFTの法的性質は明示されておらず、せいぜい、アートNFTの保有がNFTアートの著作権を保有を意味するわけではない旨が説明されている程度です。

アートNFTの保有者が行いうる行為も、プラットフォームやNFTごとに異なります。非商業的利用のみを認めるもの、商業的利用も認めるもの、複製や展示など一部の利用方法のみを認めるものなどがある一方で、(特定のアートに紐づくNFTとしての)アートNFTの保有者であることを証する(その作品の“パトロン”であることの証明)以外に特段の機能が謳われていない場合も多く見られます。

(2)アートNFTの保有≠NFTアートの「所有」

巷間では、アートNFTの保有により、それと関連付けられたデジタルアートの「所有」を証明するといった説明が多く見られ、そのことをもって、NFTを「デジタル所有権」を実現するツールだと説明する向きもあります。たしかに、アートNFTを第三者に移転できる者は通常、それが記録されているブロックチェーン上のアドレス(ウォレット)に対応する秘密鍵を知る者に限られ、そうした者が当該トークンを事実上専有することから、一般的な意味でいうところの「所有」関係があると見る余地はあります。

しかし、そもそもデジタルアートを含むデータは、法的な意味での所有権の対象となりません。民法206条が「所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。」定め、同法85条は「この法律において「物」とは、有体物をいう。」として定めていることから、無体物であるデータは所有権の対象とならないためです。

したがって法的には、アートNFTの保有がNFTアートを「所有」していることにはならず、「デジタル所有権」といった表現は些か不正確なものと言わざるを得ません。

(3)アートNFTの保有≠NFTアートの著作権の保有

著作権についてはどうでしょうか。アートNFTの取引の際、NFTアートの著作権それ自体を随伴させる(トークンの取引により著作権自体を移転する)ことは、法的には可能です。もっとも、NFTと著作権とを当然に法的に結びつける根拠があるわけではないため、それは、譲渡による著作権移転を実現する方法として、NFTを便宜的に用いている、と評価すべきものです。

そして著作権法上、著作権譲渡の方式自体をこの方法に限定することはできませんので、どこかの時点で著作権者(NFT保有者)が別途の契約などで著作権を譲渡してしまった場合、以後は著作権者でない人物がNFTを保有していることとなります。このような状況を防ぐことは現行法上難しく、よってNFTと著作権の保有関係を一体的に捉える仕組みには、克服しがたい難点があるように思われます。

これに対して、著作権に基づく一定の許諾をNFT保有者に与えるという方式であれば、それを実施する上での克服しがたい問題点は無いと言えます。実際にも、NFT保有者が利用規約等に基づきデジタルアートを一定の態様で利用することを許されている事例は多く存在しています。このようなケースであれば、「アートNFTの保有を通じて(著作権に基づく)ライセンスを保有している」と表現することもそれほど不自然ではないと思います。

Ⅲ. ケーススタディ

ここからはケーススタディ形式で、アート作品のNFTに関連して発生し得る法的論点や実務的論点をいくつか紹介しつつ、若干の分析を加えます。

1.著作権に基づくライセンスと、複数のプラットフォームを跨いだ売買

アーティストAが、自らの著作物であるアート作品をNFTプラットフォームXでNFT化し、購入者Bに販売した。同プラットフォームのユーザ(発行者・購入者を含む。)全員が同意している利用規約によれば、NFT保有者は、アーティストからの許諾に基づき、当該アート作品をコピーして商品化してもよいこととされている。しかしBはその後、当該NFTをXではない別のプラットフォームYで転売し、購入者Cがこれを購入した。この場合、Cは当該アート作品をコピーして商品化できるか。

あるNFTが、ERC721トークンなど一般的なブロックチェーンで扱える形式のトークンである場合には、複数のNFTプラットフォームを跨ぐ形での取引や、プラットフォームを利用しない相対での取引の発生が予期されます。このとき、アートNFTの保有者に対するライセンスが、プラットフォームに依存したものであるか、それとも複数のプラットフォームを跨いでも有効であるかは、アートNFTのエコシステムが特定のプラットフォームに依存せず拡大できるか否かの試金石となります。

プラットフォームXの利用規約において、Xのユーザに限定して利用権を定めているような場合、アーティストAによる許諾は、XのユーザでないNFT保有者には及ばないといえます。この場合、購入者Cは商品化について許諾を得ていることにならず、そのようなトークンを購入するインセンティブ自体が働かないことになりますので、取引は必然、プラットフォームX内でのみ起こることが想定されます。

これに対し、利用規約が明確に、プラットフォームXのユーザでないNFT保有者に対しても許諾権を定めるような記載をしている場合には、購入者Cにも許諾に基づく商品化を行う余地が生じます。将来出現する不特定の許諾先の存在を前提として、あらかじめ包括的な許諾を公に行う方式としては、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスをはじめとする、いわゆるパブリックライセンスの実務が参考になると思われます。

なお、アーティストのNFT保有者に対する許諾を、直接の許諾とするか、プラットフォームへの許諾を経由した再許諾(サブライセンス)とするかは、設計の問題であり、実務上は両方を採り得ると考えます。

2.アーティストによる著作権の譲渡

上記の事例において、アーティストAが、購入者BにNFTを販売した後、著作権をA2(プラットフォームXのユーザではなく、利用規約に同意していない。)に譲渡した場合、Bは引き続きアート作品をコピーして商品化できるか。その後にBからNFTを購入したB2についてはどうか。

AがA2に著作権を譲渡した場合、Aは著作権者ではなくなります。この場合、譲渡前に生じた許諾関係自体(利用規約に基づくものであり、契約関係と解されます。)が引き継がれることにはならず、利用規約に基づく許諾の負担が新著作権者であるA2に当然に生じるわけではありません。

ただし、令和2年著作権法改正で導入された著作権法63条の2が定める利用権の当然対抗制度により、既存のライセンシーであるBは、A2に対してはその利用権を対抗することができます。

著作権法63条の2は、サブライセンスによってサブライセンシーが得る権利についても適用があると解されるため(文化審議会著作権分科会報告書(2019年・文化庁)147~149頁参照)、著作権者が直接ライセンスする構成の場合のみならず、プラットフォームを介したサブライセンスの構成であっても、結論は同様となります。この場合、サブライセンス権を有することとなるNFTプラットフォームとしては、自身が受けているサブライセンス権つきの許諾が同条における「利用権」の内容であるとして、これを新著作権者に対抗することができる(よってその後のNFT保有者も、同プラットフォームからのサブライセンスを受け著作物を利用できる)、との立場を採ることはあり得るところであり、このような解釈の成否については結論が出ていない状況です。この点を更に推し進め、利用権の対抗制度を、ライセンス契約自体の当然承継と見る立場もあり得るところです。実務や判例の蓄積が待たれます。

しかし、これは著作権の譲渡後にNFTを購入したB2自身には当てはまらず、B2がアート作品をコピーして商品化すると、A2の著作権を侵害することが懸念されます。そうすると、少なくともAが著作権を譲渡したことが判明している場合には、NFTを購入するインセンティブが失われるか低下することは明らかであり、そのNFT自体の転売価値が損なわれることとなります。これを突き詰めると、著作権譲渡の可能性がある以上は当該NFTには転売困難となるリスクが定型的に存在することとなってしまいます。

抑止策としては、利用規約において著作権譲渡の禁止を謳うことが考えられますが、これに反してAが著作権を譲渡した場合でも、当該譲渡自体は有効と解されます。転売可能性を奪われるBや、ライセンスの伴わないNFTを購入してしまったB2には、Aの利用規約違反を理由として損害賠償を請求できる可能性がありますが、利用規約の構成次第ではA・B(B2)間では債務不履行がないと評価されかねませんし、賠償の対象となる損害の範囲やその数額算定がどうなるかなど、不明確な点は多く残ることとなります。

この問題を一足飛びに解決する方法は現在のところ見当たらず、当面は、NFT発行者であるアーティストその他ライツホルダーの属性・信用その他の事情から、このような著作権譲渡のリスクが事実上低いといえるかどうかを見極める必要があるといえます。

3.同一アート作品の複数NFT化

アーティストAが、自らの著作物であるアート作品をNFTプラットフォームXでNFT化し、購入者Bに販売した。Aはその後、同一のアート作品をXではない別のプラットフォームYでもNFT化し、購入者Cに販売した。この場合、BとCの関係はどうなるか。

見落とされがちですが、一つのアート作品について複数のNFTを発行することの物理的な制約はありません。さすがに同一のプラットフォーム上で、唯一のNFTと謳いつつ複数のNFTを発行することはできないか禁止されていると思われますが、他のプラットフォームの利用が妨げられるわけでもないため、当初唯一と謳われていたNFTが、アーティストの心変わりなどにより複数発行される事態は考えられるところです。

このような場合、購入者Bは、プラットフォームXにおける利用規約違反、又は販売時における個別の合意事項への違反を主張するなどして、損害賠償を求めることが考えられます。購入者Cも、当初のNFT販売の事実を知らずに購入したのであれば、同様の主張をする余地があります。もっとも、賠償の対象となる損害の範囲やその数額算定がどうなるかなど、不明確な点が多いことは上記2.と同様です。

著作権との関係で問題となりそうなのは、Bに対して付与されたライセンスの内容とCに対して付与されたライセンスの内容が競合する場合(例えば、BとCに対してそれぞれ独占的な利用権を付与したケース)です。もっとも、著作権法はそのような独占的許諾について定めを置いていませんので、結局は前段落と同様、利用規約や個別合意への違反という契約上の問題に帰着するといえます。

なお、仮に2つ目以降のNFTが発行されてしまったとしても、そのことは、1つ目に発行されたNFTの価値を必ずしも減少させるものでは無いかもしれません。「最初に発行されたNFT」であることには変わりがないからです。そもそも複数のオリジナルが存在し得ることはNFT固有の問題ではなく、伝統的なファインアートの長い歴史の中でも繰り返されてきたことでもあります。あるアートNFTが販売されるに至ったエピソードやコンテクストが重要なのだとすれば、そうした面を捨象して、複数作れることだけを殊更に問題視するのは、却ってこれまでのアート取引の実態を反映しない議論となるかもしれません。

4.他人の著作物のNFTアート化

Pは、アーティストAが著作権を有するアート作品を、Aの許諾なく、NFTプラットフォームXにてNFT化し、購入者Bに販売した。アート作品のデータ自体は、NFTにメタデータとして含まれているわけではなく、公衆がアクセス可能なウェブサーバ上にアップロードされている。Pはどのような責任を負うか。

他人の作品を勝手にNFT化する行為が、それ自体として著作権侵害に該当するかというと、そのように評価される可能性は小さいと考えます。NFT化といっても、アート作品を複製したり送信したりしなければならないわけではなく、極端にいうと、アーティストが「この作品のNFTだ」と宣言しているにとどまるからです。(その点では、そもそもアートNFTを発行するにあたっては、どのような仕組みやサービスの元で、誰がいつ当該NFTを発行したかがはっきりしていることこそが重要であると言えます。)

もちろん、Pがその販売にあたってアート作品の画像をプラットフォーム上で使用したり、作品のデジタルデータ自体をアップロードしたりしているとすると、そうした行為は、Aが当該作品に対して有する複製権(著作権法21条)や公衆送信権(同法23条1項)の侵害となります。また、その販売にあたりAの氏名や作品の名称を示すことが、Aの商標権やパブリシティ権を侵害する可能性もあります。実際のところ、作品の内容がわかるような画像等の情報を一切示さずにアートNFTを販売できるとも思えませんので、AとしてはPに対して主張できることが何かしらある場合が通常かとは思いますが、NFT化という行為それ自体が著作権侵害となるわけではなく、また他にも主張できそうな明確な権利も見当たらないことには、注意が必要です。

プラットフォーム事業者の立場からは、こうした他人によるNFT化を防止するために、利用規約において、自己が著作権を有しておらず、NFT化することについて正当化権限を得ていない場合のNFT化を禁止することが考えられ、現に多くのNFTプラットフォームがそのような対応をとっています。

なお、購入者Bとの関係では、Pとの間の購入契約の取消し(民法96条1項)による代金返還請求等を通じ、B・P間での解決を図ることが基本となりそうですが、プラットフォームXのNFT発行・販売への関与度合いによっては、Xの責任が追及されることも考えられます。無権限者による発行であると判明するまでの間にNFTが転々流通してしまっている場合には、状況は些か複雑になりますが、その逐次の購入契約も同様に取消しの対象となると思われます(民法95条1項2号)。

5.NFTアートへのアクセスの永続性

購入者Bは、NFTプラットフォームXでデジタルアート作品のアートNFTを購入した。Xのもとで発行されたアートNFTの保有者は、Xが用意するシステムを通じて、対応するアート作品にアクセスし閲覧することができる。ところが、あるときXの事業が終了し、アート作品へのアクセスが出来なくなってしまった。

現在のNFTアートには、それを取り扱うNFTプラットフォームの存在を前提としているものが少なくありません。とりわけ、NFT保有者に限ってアート作品にアクセス可能な仕組みを提供しようとする場合、そのアクセスの仕組みにはプラットフォーム自身の関与が不可避となり、プラットフォームの存続可能性に大きな影響を受けることとなります。そして当該アクセスの仕組みが将来にわたって利用不可となった場合、たとえNFT自体がERC721トークンであり、イーサリアム・ブロックチェーン上で半永続的に取引できるとしても、本質的な価値を失う可能性があります。

また、アクセス方法が旧式化した結果としてアクセス手段を失う可能性も考えられます。例えば、ビットマップ形式の画像ファイルであれば、極めて単純なファイルフォーマットであるため、それをデジタルアート作品として再現する手段はかなりの長期にわたり存続し続けることが期待できますが、特定のVRゴーグルを着用して閲覧するようなVR作品の場合、それに対応する製品の生産が終了して長時間が経過すると、もはや作品の閲覧自体が極めて困難となり得ます。

これらの点は、伝統的なファインアートには無い、デジタルアート特有の問題といえます。将来にわたり利用可能性が高いと思われるファイルフォーマットを利用する、永続性の高いストレージサービス(事業の継続性に問題がないと思われる企業のサービス、IPFSをはじめとする分散型ストレージの仕組み等)を利用するといった対策は考えられますが、コンテンツの種類によってはそのような対応も困難と思われます。この点については、技術的な解決が待たれます。

6.アーティストへの利益還元の限界に関する問題

アーティストAは、自らの著作物であるアート作品をNFTプラットフォームXでNFT化し、購入者Bに販売した。Xは、NFTの譲渡が行われる都度、その譲渡対価の一部をアーティストAに自動的に還元する仕組みを有している。Bが、Xではない別のプラットフォームYで当該NFTを譲渡した場合には、どうなるか。

アートNFTがアーティストからも注目される理由の一つには、NFTが転々流通する都度、その譲渡対価の一部を、確実にアーティストに対して利益還元するように設計することができるという点があるといわれています。

このような仕組みを法制化するものとして、著作権の一部としての「追及権」制度があります。我が国には同様の仕組みはありませんが、いわゆる欧州追及権指令(Directive 2001/84/EC)に基づきEU各国において導入されているなど、諸外国においては比較的受け入れられている仕組みです。

NFTの分野でこれを実現する仕組みは、NFTに一般的に用いられるERC721やERC1155といった規格上で定義されているわけではなく、その実装は個々のプラットフォームに依存しています。そして一般に、当該仕組みを持つプラットフォームであっても、その対象とする取引は自らのプラットフォーム上で行われた取引に限定されています。この場合、特定のプラットフォームにおいて利益還元の仕組みが実現できているとしても、上記5.と同様、当該プラットフォームの事業継続リスクが問題となりますし、他のプラットフォームや相対取引の場合には、こうした利益還元を実現できないこととなります。

Ⅳ. おわりに

本稿では、デジタルアートのNFTを中心として、そもそもNFTとは何か、その法的性質はどうか、とりわけ著作権との関係で生じる個別的な問題にどのようなものがあるか、をそれぞれ概説しました。

NFT取引が活発化したのは本年に入ってからであり、現在も様々な利活用が模索されているところです。必然、法律実務も手探りが続いておりますが、少々まとまりを欠いたとしても現時点でお伝えできる情報を積極的に発信させていただくことに意義があると考え、執筆テーマとした次第です。足元でも多くのご相談案件をいただいておりますので、引き続き、少しでも有益な情報提供に努めて参ります。