【4/11大幅更新】NFTの法的論点【随時追記】

急速にトレンド化したNFT(Non-Fungible Token、ノン・ファンジブル・トークン)。長く弁護士としてNFTに関わってきた身として、情報をまとめていこうと思い立ちました。


I. 私がNFTについて書く理由(これを読むべき理由)

弁護士・ニューヨーク州弁護士 増田 雅史
IT・デジタル関連のあらゆる法的問題を一貫して手掛け、業種を問わず数多くの案件に関与。特にゲーム及びウェブサービスへの豊富なアドバイスの経験を有する。金融庁でのブロックチェーン関連法制の立案担当を経て、Fintechにも深い知見を有する。

1. NFT全般に詳しく、既に多くの案件に関与
・NFTについて、ブロックチェーンゲーム中心に早期からアドバイス開始(2017-)
・日本初の国産 NFTゲームの規制対応・規約整備等を総合的に支援、リリースに導く(2018)
・スポーツをモチーフとした NFTゲームについて、法律意見書を作成(2020)
・NFTマーケットについて、法規制対応を含む総合的なアドバイスを提供(2020)
・日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)NFT部会運営メンバーとして論点整理に参加(2020-)

2. 法令立案を経験するなど、ブロックチェーン×法規制全般に精通
・金融庁専門官としてブロックチェーン関連の改正法(暗号資産法)を立案(2018-2020)
・著書『暗号資産の法律』『暗号資産の法的性質と実務』ほか多数

3.  NFTアート案件に求められる、コンテンツ法制・著作権全般に精通
・経済産業省メディア・コンテンツ課に弁護士として勤務(2009-2010)
・著書『デジタルコンテンツ法制』『インターネットビジネスの著作権とルール』『著作権判例百選』ほか多数

4.  新規事業・スタートアップ支援に深くコミット
・虎ノ門ヒルズインキュベーションセンター「ARCH」メンター(2020-)
・東大ブロックチェーン寄付講座の教え子からもブロックチェーン起業家を輩出


II. NFTの法的論点(暫定版)

速報性の観点から、2021年2月15日に日本オンラインゲーム協会(JOGA)様向けに実施したセミナーの資料を抜粋しつつ、必要な説明を追記する形で、暫定的に情報をまとめました。

ご留意いただきたい点:
・小職が所属する組織の意見を代表するものではなく、個人的見解です。
・ブロックチェーンゲームが題材であるため、拾い切れていない論点もあります。
・情報を厳選したため、スライド番号が飛んでいます。

【スライド1】オンラインゲームの業界においても、ブロックチェーンゲームという形でNFTを活用することへの関心が高まっており、リリース済みのタイトルも増加しつつあります。私は2017年からブロックチェーンゲームへのアドバイスを開始し、2018年には 日本初の国産ブロックチェーンゲームのリリースを支援しました。その経験や、その後のアドバイスの経験を踏まえてお話いたしました。

【スライド3】お話するメニューは上記のとおりですが、主にお伝えしたいメッセージを先取りすると、下記の2点です。

  • NFTか否か、という問い自体には、法的な意味はありません。各種規制法上の規制対象(暗号資産など)の定義に照らして検討する必要があります。
  • 賭博該当性、景品類該当性の明確な否定は容易ではなく、ケースバイケースでの詳細な検討が必要となります。

【スライド5】NFTとは、その名称が意味する通り、ファンジブルではない、すなわち現金やビットコインのように代替性があるものではないトークンです。CryptoKittiesというブロックチェーンゲームの登場をきっかけとして利用が広がり、昨今ではアート分野への利用も拡大しつつある状況を迎えています。その多くは、ERC(Ethereum RFC)721という規格のトークンとして、Ethereum上で発行される形をとります。

NFTには、ブロックチェーン自体の特質を脇に置けば、何らかの固有のものに対してユーザごとの権利を表現し得る(事実上の排他的占有を生む)こと以外に目立った技術的な特質があるわけではありません。もっとも、この特質を通じ、ユーザがゲーム内のアセットを疑似的に「所有」し、さらにそれをゲーム外にも「持ち出せる」状態を作ることができ、これを活かした様々なチャレンジが行われてきています。

以下、まずは「NFTの発行・取引と法規制」について説明します。当該NFTの発行や取引への関与がそもそも許されるか、という点に関わるテーマであり、最も重要な部分です。

【スライド7】上記のとおり、あるNFTが暗号資産に該当する場合、いずれのアクションも暗号資産交換業に該当する可能性が高く、この場合、資金決済法上の暗号資産交換業登録が必要となり大変重たい規制に服することとなります。

【スライド8】もっとも、暗号資産に該当するかどうか以前に検討すべきいくつかの規制があります。順次説明しますが、こうしたものに該当する場合、暗号資産には該当しないことがあるので、順序としては先行して検討することとなります。また、有価証券や為替取引に該当する場合には、課せられる規制も重たいものとなるため、そうしたものに該当しない、ということは先行して確認する必要性が高いといえます。

【スライド9】まずは、金融商品取引法上の有価証券です。典型的には株式や社債などであり、そうしたものをトークン化した場合にも特別な規制が課せられることになりますが、株式や社債はそもそもファンジブルなものであり、NFT活用という文脈からは遠いため、ひとまず省略します。

「集団投資スキーム持分等」もNFTとの関連性は微妙ですが、必ずしもファンジブルなものでなくとも該当し得るキャッチオール的な規制対象であり、何らかの分配を約束するようなものについては検討を要します。

【スライド10】トークン化した 「集団投資スキーム持分等」 は、2019年改正法により、「電子記録移転権利」に該当することとなりました(私が立案担当者でした)。

「集団投資スキーム持分等」 の自己募集行為をする者には、もともと第二種金融商品取引業の登録が必要でしたが、同改正により、「電子記録移転権利」の発行については原則として開示規制が及ぶこととなり、「電子記録移転権利」の売買等の媒介には第一種金融商品取引業の登録が必要となるなど、規制が強化されています。

【スライド11】次に「前払式支払手段」です。スライドには要素を要約しましたが、ゲーム事業者にはおなじみのものであり、ゲームサービス内で販売される有償のポイントなどがこれに該当することはよく知られています。

(最後の「※」は、JOGAの会員企業等に限定公開されているもので、一般には参照できません。)

【スライド12】暗号資産と前払式支払手段とは、どちらも法令上は決済用途に用いられるものとして規律されている対象であり、かつどちらも資金決済法の規制対象であるため、その差異が問題となりやすいといえます。

ここにガイドラインの記述を引用しましたが、要するに、決済手段性があるもののうち、使われる先が決まっているものが、前払式支払手段に該当する、くらいに理解しておけばよいでしょう。ここでは詳論しませんが、前払式支払手段発行者には、届出義務や登録義務を入口として、未使用残高の一部の供託等による保全といった重たい義務が生じることとなります。

【スライド13】次は為替取引です。為替取引とは、要するに資金の移動でして、何らかの媒体を間に挟んだとしても、離れている二者間で資金が移動するようなものは、みなこれに該当する可能性があります。ただ、これはあくまで法定通貨ベースで考えた場合であっても、法定通貨が介在する余地がなければ、為替取引該当性はあまり問題にする必要がないと言えます。

もし為替取引に該当した場合に、何も規制対応のアクションを取っていなければ、銀行法違反となります。非常に重たい規制対象であると言えます。

【スライド14】さて、ようやく暗号資産の該当性です。定義自体は上記のとおりです。

【スライド15】先ほども述べましたが、典型的なNFTはERC721規格によりEthereum上で発行され、動作することとなります。そうすると、いわゆる「二号仮想通貨」に該当する懸念が生じます。

【スライド16】では当局はなんと言っているか。金融庁の事務ガイドライン改正時のパブリックコメント手続における当局とのやりとりを見てみますと、まず、まさに先ほどの疑問点に対する回答として、ERC721形式のトークンであっても暗号資産への該当性は否定されていません(なお仮想通貨の名称は、前述した2019年改正法により暗号資産に変更されました)。

【スライド17】しかし当局は同じ回答集の中で、上記のようにも言っています。これは、経済的機能に着目することで、いわゆる二号仮想通貨該当性を否定する見解です。

【スライド18】資金決済法の文言上は、そのような経済的機能の有無は、要件にはなっていません。定義だけを見ると、暗号資産に該当することは否定しがたかったのですが、当局として、法律の目的に沿って実質的な限定解釈を示したということができます。

【スライド19】ではNFTは全てが暗号資産に該当しないかというとそんなことはなく、上記のように、結局は実質的に判断する必要があります。これが冒頭に述べた、「NFTか否か」という問いに法的な意味はない、という整理に繋がります。

ここからは、ブロックチェーンゲームとして典型的に考えられるものや、これまでのスマホゲー、ブラウザゲーの延長から考えて、頻出と考えられる論点をいくつか整理します。

【スライド22】ゲームの結果を換金できるような仕組みは、RMT(リアルマネートレード)と呼ばれ自主規制の対象となってきましたが、その対策等について整理が進められていた頃にも、換金性のあるゲームは賭博に該当することも懸念される、との議論がありました。

【スライド23】ただ、賭博該当性については、前のスライドのとおり明確な基準があるわけではないため、ケースバイケースでの検討が必要となります。上記の整理については、JCBAのNFT部会における検討の場にも情報提供しております。

【スライド24】次に、景品類規制です。そもそも景品類規制は、大きく分けて「総付景品」と「一般懸賞」の規制に分かれますが、いずれについても景品類として提供できる経済的価値に金額的な制限があります。NFTに関するざっくりとした着眼点は、上記のとおりです。

ここからは、おまけてきにその他のトピックにも触れています。

【スライド26】カストディ規制については、暗号資産や有価証券に該当しない以上は法規制の対象とはなりませんが、その対象外であることについては、消費者に誤解が生じないように丁寧な説明が求められると言えます。

マネロン・テロ資金供与規制については、もしそのような形で用いられるような実態が生じてしまうと、当局としては犯収法上の規制対象であると言いたくなるはずで、既存の法解釈を乗り越えて規制を課してくることも考えられるため、そのような実態が生じないよう注意が必要です。

最後の点も同じような話で、投資という実態が生じることで、「それは集団投資スキーム持分等では?」(つまり金融商品取引法で規制されるべきでは)という考慮が働き得る点、注意が必要です。

【スライド27】税務のアドバイスは専門外ですので、こちらは単なるご参考です。

【スライド28】冒頭で述べた点です。すなわち:

  • NFTか否か、という問い自体には、法的な意味はありません。各種規制法上の規制対象(暗号資産など)の定義に照らして検討する必要があります。
  • 賭博該当性、景品類該当性の明確な否定は容易ではなく、ケースバイケースでの詳細な検討が必要となります。

以上、 速報性の観点から、2021年2月15日に日本オンラインゲーム協会(JOGA)様向けに実施したセミナーの資料を抜粋しつつ、必要な説明を追記する形で、暫定的に情報をまとめました。


「NFTアート」のオークション販売がブーム化しつつあります。しかし「アートをNFT化」といっても、実際のところ、いったい何を売っているのでしょうか。それを独占できるということは著作権でしょうか。

ここでは、アートと密接に結びつく著作権について基本的な事項を説明するとともに、実際上、NFTアートといっても著作権を売っているわけではないこと、著作権やそのライセンスをトークンに乗せて売ろうとしても法制度とマッチしないこと、を解説します。(では何を売っているのか?という問いはその意味でやはり重要で、後日まとめようと思います。)

1.著作権について

平たくいうと、著作権とは、その表現のコピーなどを行うことを独占し、他人によるコピーなどを禁止することができる権利です(だから伝統的に「コピーライト」と言われます)。

(1)所有権との違い

所有権との違いが重要なので、まずはたとえ話を。

私がスケッチブックを買ってきて、そこにイラストを描いたとします。そうすると、そのイラストが描かれた紙については、私が所有者であり、所有権(占有を独占する権利)を行使できます。しかし私がその紙をAさんに売ったとすると、その所有権はAさんに移り、以後私は所有権を行使できません。

これに対し、そのイラスト作品(という表現)自体は著作物となりますので、私は著作権者として、他人がそれをスキャンしたり、印刷して販売したり、ウェブ上で公表したりする行為を禁止することができます。所有権を得たAさんであっても、私が別途許諾しない限り、コピーして販売したりはできません。

ところでNFTは、データや権利を「所有」することができる技術だと説明されることがありますが、法的な意味での所有権は有体物(物理的に存在するモノ)にのみ発生しますので、「所有」と表現するのは不正確かもしれません。私は、トークンに対応する秘密鍵を管理している状態を、トークンを「保有」している、と表現するのがさしあたり適当であると考えています。

(2)著作権とは何か

著作権が発生するような創作的な表現を、著作物と呼びます。どの程度の創作性があれば良いか等、ここにも難しい論点があるのですが、本稿では立ち入りません。

著作物を創作した者が著作者であり、原則として著作者が著作権を行使できます(よって著作者=著作権者となるのが通常)。このとき、ベルヌ条約等の働きにより、世界のほぼ全域において著作権が自動的に発生することとなります(無方式主義)。(著作権自体は国ごとに発生するのですが(属地主義)、ここでは日本法上の著作権について説明しています。)

著作権は色々な行為を他人に対して禁止できる権利(支分権)の集合であり、例えば、コピーの禁止(複製権)、ウェブ送信の禁止(公衆送信権)、コピーして増やしたものの譲渡の禁止(譲渡権)、改変して新たな表現物にすることの禁止(翻案権)といったものがあります。また、翻案の結果として創作された新たな著作物(二次的著作物)についても、同様の権利を行使できます。

著作権は譲渡することが可能であり、譲渡の方式については何も制限はありません。例えば、著作権を譲渡する旨の契約を締結すれば譲渡できますし、そうした契約は口頭で交わしたとしても有効です(契約をした証拠が残りにくいのは問題ですが)。

また、著作者には著作権のほか、著作者人格権も生じます。著作者人格権もいくつかの権利の集合ですが、ポイントになりやすいのは、意に反する改変をさせない権利(同一性保持権)です。著作権とは異なり、譲渡できない権利です。

なお、IT的な文脈で著作権の概略を学びたい方は、ぜひ『インターネットビジネスの著作権とルール』をお読みください(宣伝)。共著ですが、全体の半分強を私が執筆しています。

2.NFTに「著作権を乗せる」のは難しい

本題に戻ります。NFTアート作品の販売の際には、「世界に一つだけ」といった表現により、あたかもそのアート自体を独占できるかのように説明されることがあるようです。では、そのNFTには、アート自体を独占するために著作権も付随してくるのでしょうか。

そのような例は、私の知る限りありません。そして、もしあったとしても、上記で述べたとおり著作権の譲渡方式には制限がないため、著作権が必ずNFTに付随して譲渡・移転している保証があるわけではなく、その仕組み自体は相当に不安定なものとなります。

つまり、仮にAさんがBさんにNFTアートを販売する際、その著作権はNFTの移転によってのみ譲渡すべし、と契約上制限したとしても、Bさんがそれに反して(NFTの移転によらず)Cさんと契約して著作権を譲渡した場合、それは有効です。NFTはBさんのもとにあっても、著作権者はCさんとなります(A・B間の契約内容によっては、Bさんは契約に違反したことになりますが、それもCさんへの著作権の移転に影響しません)。

このように、著作権それ自体をNFTにより流通させようとする試みは、それ以外の方法による著作権の移転を阻止できないことから困難です。

なお余談ですが、私が金融庁専門官として改正法を立案した「有価証券のトークン化」分野でも、トークンに乗せた有価証券をトークン移転以外の方法で譲渡されてしまう可能性について議論があります。株式トークンについて、株式の譲渡方式をトークン移転に限定する方法に関する私の試論が『暗号資産の法的性質と実務』97頁に記載されていますので、ご興味のある方はぜひ(宣伝その2)。

3.著作権に基づくライセンス(許諾)の構成にも難あり

著作権自体をNFTに乗せるのが難しいとしても、著作権に基づく「ライセンス」であればどうでしょうか。著作権とは前記のとおり、他人によるコピーなどを禁止する権利ですので、著作権者の許諾(ライセンス)があれば、その許諾条件に従ってコピー等をすることができます。

著作権を著作権者に残しつつ、この「ライセンス」、つまりアートを自由に利用できる地位をNFT保有者にのみ与えるというやり方についても、考察してみましょう。

(1)一方的なライセンス宣言には撤回リスクがあるため、難あり

NFT自体は転々流通し得るため、当初のNFT購入者以外がNFT保有者となり得ます。そうすると、著作権者がNFT保有者に対してライセンスを与えようとする場合、当初のNFT購入者にだけ許諾をしているだけではだめで、(将来の、未知の)NFT保有者にもライセンスが行き届くよう、公衆に対してライセンスを宣言する必要が生じます。

このようなライセンス方式は「パブリックライセンス」と呼ばれることがあり、実務上、有効なものとして扱われています。なお、パブリックライセンスの仕組みとして最も用いられているものにCreative Commons License(CCライセンス)があります。私は2009年からクリエイティブ・コモンズ・ジャパン(CCJP)に関与しており、CCライセンスについて過去に執筆した解説記事の全文を公表していますので、ご興味のある方はご覧ください(宣伝その3)。

さて、著作権者がNFT保有者だけをライセンシーとする内容のライセンスを公に宣言したうえで、NFTを販売したとします。それでNFT保有者は、以後万全にアート作品を(ライセンス条件に従いさえすれば)利用可能でしょうか。

問題となるのは、著作権者がライセンス宣言を撤回した場合です。1対1のライセンスならば、ライセンスを契約の一部とすることで一方的な撤回(契約の解除)を回避することが可能となりますが、ライセンス宣言の場合、少なくとも将来のNFT保有者との関係では現在のところ許諾関係があるとはいいがたく、一方的な撤回は有効と解される可能性があります(一般論として、撤回の可否については議論がありますし、著作権者がNFT保有者に対して著作権を行使しようとすれば権利濫用の法理などにより排斥される可能性も考えられますが…)。

上記のように解される場合、撤回後にNFTを譲り受けた者との関係では有効なライセンスは無いことになり、NFTにライセンスが付随している、という形をとることにも困難があることとなります。

加えていうと、仮にライセンス宣言の中で、ライセンシーをNFT保有者に限ること(いわゆる独占的ライセンス)を表明していたとしても、それに反する新たな許諾は著作権法上有効であり、せいぜい、NFT購入者に対する契約違反の問題を生じ得るにすぎません。特許法上の専用実施権のような、法令上の裏付けのある独占的ライセンスの方式が著作権法には存在しないためです。

(2)スマートコントラクトによるルール構築の限界

多くのNFTはERC721に準拠して発行され、Ethereum上で移転可能です。では、Ethereum上で著作権の譲渡や独占的ライセンスが意図したとおり確実に実施されるよう、スマコンによる自動執行の仕組みを活用することは考えられるでしょうか。

これは現在の法制度上、困難と考えます。著作権の発生、保有、移転、行使、許諾をブロックチェーン上の記録に委ねるよう疑似的にスマコンを記述できたとしても、それがここまで述べてきた著作権法上の帰結を不特定多数との関係で上書きすることはなく、あくまで、そうした約束に参加しているグループの中で(契約に基づく制約として)有効となり得るものにすぎないためです。

このように、著作権の発生、保有、移転、行使、許諾といった関係をチェーン上で完結させることはできず、究極的には裁判所において判断・執行されることとなります。

(3)契約形式ではどうか

ライセンス方式には、撤回リスクという難点がありました。では、一方的な撤回を難しくするため、契約という形式を利用するアイデアはどうでしょうか。契約の場合、原則として、一方当事者が勝手に解除して契約関係を終了することができないためです。

具体的には、著作権者とNFT購入者との間でライセンスを含む契約を締結し、その契約の中で、契約当事者(のうちNFT保有者)としての契約上の地位を、NFTの移転とともに新たなNFT保有者に移転する旨を定める方法です。こうすることで、著作権者とNFT保有者との間の契約関係はNFTに付随して動いていくことになるし、著作権者による一方的な撤回という問題も回避できそうです。

著作権者自身がNFT購入者との間で直接の取引を行い、契約を締結するという場面は多くなさそうです。アーティストから作品のNFT化や販売を委ねられた事業者がいるというケースのほうが多いのではないでしょうか。もっとも、この場合でも 、事業者が著作権者から適切に代理権を得て、代理人として契約を締結することで、著作権者を契約当事者として契約を成立させることは可能です。

しかし、ここまでやったとしても、著作権者が著作権を譲渡してしまうリスクは排除できません。著作権法上、著作権の譲渡自体を禁止する方法はなく、上記の契約上で譲渡禁止の旨が明確に定められていたとしても、いったん譲渡されてしまえば、それは契約違反の問題となるにすぎません。

そして、著作権が譲渡されてしまえば、NFT保有者は新たな著作権者に対し、ライセンシーとして振る舞うことはできません。著作権法上、譲渡前に存在していた許諾を譲受人(新著作権者)に対抗することができないためです。言い換えると、新著作権者から著作権を行使されてしまえば抗う方法がなく、勝手に譲渡してしまった旧著作権者に対し、損害賠償請求をするくらいしかダメージを回復する方法がなさそうです。

なお、この問題は何も契約方式に限った話ではなく、(1)で述べたライセンス宣言の方式にも内在している問題です。

(4)NFT保有者だけがアート作品を楽しめる、という方式ではどうか

視点を変えてみましょう。著作権から離れて、著作物であるアートに対するアクセス自体をNFT保有者に限定してしまう方式はどうでしょうか。例えていえば、一人だけが入れる映画館の入場券が発売され、流通するようなイメージです。

しかしこの場合、ブロックチェーン上にアートの内容自体を記録して、しかもNFT保有者だけが暗号を解除して作品を参照できるような形でスマコンを構築する、といったやり方を採れるような稀なケース(小さなドット絵であるなど作品自体のデータサイズが小さい場合)を除き、作品自体はブロックチェーン外に置く必要があり、そのインフラや作品を楽しむプラットフォームなどのサービスに依存することとなります。

データの永続性やチェーン上で完結する処理自体は、例えば、IPFSの仕組みとPolkadotのようなチェーン間連携技術を組み合わせることで実現可能かもしれません。しかし、NFT保有者以外が確実にアートを楽しめない(アートデータが外に出て行かない)仕組みを実現しようとすると、そのアートを楽しむ方法自体を制約する何らかのシステムが必要であるように思います。

そうすると、結局は特定のサービスへの依存は避けられないこととなり、当該サービス自体の存続可能性がリスクとなります。(4)冒頭で述べた例でいうと、入場券という紙片自体は映画館がどうなろうが手元に残りますが、映画館がつぶれれば紙くず同然になるという問題です。他の利用方法があれば別ですが。

NFTアートの場合は結局、アート作品自体は公表されているのが通常で、保有者だけが楽しめるという形式のものは稀であるように思います。例えば3月には、オークション販売されたBeeple作のNFTアート「EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS」が約75億円で落札され世界の話題をさらいましたが、同作品の元データ自体はIPFS上で保持されており、誰でもダウンロード可能です(リンクはこちらなんと304MBもありますのでお気をつけください)。

Beeple (b. 1981) EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS

余談となりますが、むしろサービスへの依存度が典型的に高いのは、II.の解説で想定しているブロックチェーンゲームです。

典型的なブロックチェーンゲームは、ある特定のサービス上で利用できるキャラクターやアイテムなどがNFT化されていて、(NFTなので)サービス外で取引でき、もしかしたら他のゲームやサービス上でも利用可能かもしれない…といった風情です。その特質を生かして、他社ブロックチェーンゲームとのコラボや自社の複数タイトルでの活用といったサービスをまたいだ活用事例もみられますが、現状は、もとのゲームサービスに大きく依存している例がほとんどであるように思います。

4.まとめ

(最後は少しわき道にそれつつも)ここまで著作権という切り口でNFTアートを見てきましたが、いかがだったでしょうか。

結局、販売対象となるNFTと著作権とを結び付けようとする試みには、著作権そのもの、そのライセンス、ともに難点があるといえます。そのためか、実際のNFTアートの事例でも、著作権と関連づけない形で販売されているものがほとんどでしょう。

では、NFTアートとして販売されているものは、いったい何なのでしょうか。これは後日、さらに解き明かしていきたいと思います。


IV. これからまとめたいこと・雑感

1.今後まとめたい点

「NFTアート」とは、いったい何が売られているのか?(いかなる「権利」が販売されているのか。それとも何等かの事実状態か。NFTを保有していることにより何らかのサービスを享受できるのか。事実証明やサービスの享受が特定のサービス提供者に依存していないか。・・・といった論点)

ほかにも追記していきたいと思います。

2.懸念していること、今すべきこと

NFTアートその他NFTとされるものについて、オークション形式での販売が急に拡大しています。現在は下記のような理由や背景から、投機的な思惑での購入者が多数流入している側面が強いようにも思われ、数多くのscamプロジェクトを生み一過性のブームに終わってしまったICO(イニシャル・コイン・オファリング)と同様の結末を辿ることとならないか懸念しています。

  • 客観的な値付けが難しいうえ、既存のアート業界のような値付けの慣行や目安も存在しない
  • 上記と相まって、マーケットメカニズムが働いているように見えない
  • 他方で、OpenSea等のNFTマーケットでの処分可能性がある(これは悪いことではないが)
  • NFTアート中心に、いったい何が販売されているのかが判然としないものが多い

しかし、ブロックチェーンやNFTといった技術自体の有用性が高いことは論を待ちません。NFTに名を借りた、消費者の投機的思惑を利用した詐欺的案件が急増するなどて分野全体がしぼんでしまわないよう、今なすべきことがいくつかあると考えます:

  • ブロックチェーン業界での自主的なルール整備 ※私も取り組み中です
  • 法律実務の蓄積による法解釈の安定化 ※私も取り組み中です
  • ブロックチェーン・NFTに対する消費者リテラシーの向上

ブロックチェーン・NFTの健全な発展を通じて、世の中に更なる価値がもたらされることを願って、本記事を公表しました。