NFTの法的論点【随時追記】

急速にトレンド化したNFT(Non-Fungible Token、ノン・ファンジブル・トークン)。長く弁護士としてNFTに関わってきた身として、情報をまとめていこうと思い立ちました。

【目次】クリック・タップでジャンプできます

I. 私がNFTについて書く理由(これを読むべき理由)
II. NFTの法的論点(暫定版)
III. NFTアートと著作権
IV. 実質的に取引されているものは何か(5/18項目追加)
V. これからまとめたいこと・雑感


I. 私がNFTについて書く理由(これを読むべき理由)

弁護士・ニューヨーク州弁護士 増田 雅史

IT・デジタル関連のあらゆる法的問題を一貫して手掛け、業種を問わず数多くの案件に関与。特にゲーム及びウェブサービスへの豊富なアドバイスの経験を有する。金融庁市場課でのブロックチェーン関連法制の立案担当(2018-2020)を経て、FinTechに深い知見を有するとともに、古くは経済産業省メディア・コンテンツ課での勤務(2009-2010)を皮切りとして、コンテンツ業界・アート分野への著作権法を中心とするアドバイスも長く手がけている。両分野の著作講演多数。日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)NFT部会 法律顧問。(⇒ 詳細なプロフィールはこちら

1. NFT全般に詳しく、既に多くの案件に関与
・NFTについて、ブロックチェーンゲーム中心に早期からアドバイス開始(2017-)
・日本初の国産NFTゲームの規制対応・規約整備等を総合的に支援、リリースに導く(2018)
日本暗号資産ビジネス協会 NFT部会 法律顧問としてNFTガイドラインを策定(2020-)
・NHK「おはよう日本」、フジテレビ「Mr.サンデー」にてコメント紹介(2021)
・本記事のほか、公表・非公表含め多くの機会を通じて情報発信(2020-)

 関与した案件の一部(2020-のみ、特に多いご相談は太字):
 ・NFTマーケットの提供

 ・NFTゲームの提供、NFT販売
 ・NFTトレーディングカード収集サービスの提供、NFT販売
 ・外部NFTマーケット・ウォレットサービスの利活用
 ・アーティスト向けNFTアート発行プラットフォームの提供
 ・NFT化を前提とするアート制作の委託、そのNFT化・販売
 ・アート販売サービスにおける取扱商材へのNFTアートの追加

2. 法令立案を経験するなど、ブロックチェーン×法規制全般に精通
・金融庁専門官としてブロックチェーン関連の改正法(暗号資産法)を立案(2018-2020)
Best Lawyers in Japanに、FinTechとIT法の2分野で選出(2021)
・著書『暗号資産の法律』『暗号資産の法的性質と実務』ほか多数(→著作一覧

3.  NFTアート案件に求められる、コンテンツ法制・著作権全般に精通
・経済産業省メディア・コンテンツ課に弁護士として勤務(2009-2010)
・著書『デジタルコンテンツ法制』『インターネットビジネスの著作権とルール』『著作権判例百選』ほか多数 (→著作一覧

4.  新規事業・スタートアップ支援に深くコミット
虎ノ門ヒルズインキュベーションセンター「ARCH」メンター(2020-)
・東大ブロックチェーン寄付講座の教え子からもブロックチェーン起業家を輩出

NFTに関する公表可能な情報発信履歴(2021年):

種類内容
2/15講演JOGA 会員向けセミナー(特にブロックチェーンゲームについて)
2/21勉強会Web3JP勉強会『NFTの法的論点』と題して発表
4/6-執筆本記事を公表、以後逐次更新
4/19取材対応NHK『おはよう日本』にてコメント紹介(4/19放送)
4/26支援JCBA NFTガイドラインの策定・公表(NFT部会 法律顧問として)
4/28講演アステリア株式会社CEOらと『NFTに関する特別講座』登壇
5/10講演証券会社様 機関投資家・アナリスト向けセミナー登壇
5/17勉強会スタートバーン株式会社CEOらとアートNFTについて勉強会
5/28講演JCBA 会員・メディア向け月次勉強会に登壇
6/2, 6/4取材対応朝日新聞 NFT特集記事(デジタル版夕刊)にコメント掲載
6/6取材対応フジテレビ『Mr.サンデー』にてコメント紹介(6/6放送)
6/21講演シンガポール淡星会 ファイナンス分科会セミナー登壇
6/27講演Web3JP勉強会 業界団体・自主規制の動向について発表
9/7講演外資系証券会社様 海外投資家向けカンファレンス登壇

II. NFTの法的論点(暫定版)

速報性の観点から、2021年2月15日に日本オンラインゲーム協会(JOGA)様向けに実施したセミナーの資料を抜粋しつつ、必要な説明を追記する形で、暫定的に情報をまとめました。

ご留意いただきたい点:
・小職が所属する組織の意見を代表するものではなく、個人的見解です。
・ブロックチェーンゲームが題材であるため、拾い切れていない論点もあります。
・情報を厳選したため、スライド番号が飛んでいます。

【スライド1】オンラインゲームの業界においても、ブロックチェーンゲームという形でNFTを活用することへの関心が高まっており、リリース済みのタイトルも増加しつつあります。私は2017年からブロックチェーンゲームへのアドバイスを開始し、2018年には 日本初の国産ブロックチェーンゲームのリリースを支援しました。その経験や、その後のアドバイスの経験を踏まえてお話いたしました。

【スライド3】お話するメニューは上記のとおりですが、主にお伝えしたいメッセージを先取りすると、下記の2点です。

  • NFTか否か、という問い自体には、法的な意味はありません。各種規制法上の規制対象(暗号資産など)の定義に照らして検討する必要があります。
  • 賭博該当性、景品類該当性の明確な否定は容易ではなく、ケースバイケースでの詳細な検討が必要となります。

【スライド5】NFTとは、その名称が意味する通り、ファンジブルではない、すなわち現金やビットコインのように代替性があるものではないトークンです。CryptoKittiesというブロックチェーンゲームの登場をきっかけとして利用が広がり、昨今ではアート分野への利用も拡大しつつある状況を迎えています。その多くは、ERC(Ethereum RFC)721という規格のトークンとして、Ethereum上で発行される形をとります。

NFTには、ブロックチェーン自体の特質を脇に置けば、何らかの固有のものに対してユーザごとの権利を表現し得る(事実上の排他的占有を生む)こと以外に目立った技術的な特質があるわけではありません。もっとも、この特質を通じ、ユーザがゲーム内のアセットを疑似的に「所有」し、さらにそれをゲーム外にも「持ち出せる」状態を作ることができ、これを活かした様々なチャレンジが行われてきています。

ここからは、「NFTの発行・取引と法規制」について説明します。当該NFTの発行や取引への関与がそもそも許されるか、という点に関わるテーマであり、最も重要な部分です。

【スライド7】上記のとおり、あるNFTが暗号資産に該当する場合、いずれのアクションも暗号資産交換業に該当する可能性が高く、この場合、資金決済法上の暗号資産交換業登録が必要となり大変重たい規制に服することとなります。

【スライド8】もっとも、暗号資産に該当するかどうか以前に検討すべきいくつかの規制があります。順次説明しますが、こうしたものに該当する場合、暗号資産には該当しないことがあるので、順序としては先行して検討することとなります。また、有価証券や為替取引に該当する場合には、課せられる規制も重たいものとなるため、そうしたものに該当しない、ということは先行して確認する必要性が高いといえます。

【スライド9】まずは、金融商品取引法上の有価証券です。典型的には株式や社債などであり、そうしたものをトークン化した場合にも特別な規制が課せられることになりますが、株式や社債はそもそもファンジブルなものであり、NFT活用という文脈からは遠いため、ひとまず省略します。

「集団投資スキーム持分等」もNFTとの関連性は微妙ですが、必ずしもファンジブルなものでなくとも該当し得るキャッチオール的な規制対象であり、何らかの分配を約束するようなものについては検討を要します。

【スライド10】トークン化した 「集団投資スキーム持分等」 は、2019年改正法により、「電子記録移転権利」に該当することとなりました(私が立案担当者でした)。

「集団投資スキーム持分等」 の自己募集行為をする者には、もともと第二種金融商品取引業の登録が必要でしたが、同改正により、「電子記録移転権利」の発行については原則として開示規制が及ぶこととなり、「電子記録移転権利」の売買等の媒介には第一種金融商品取引業の登録が必要となるなど、規制が強化されています。

【スライド11】次に「前払式支払手段」です。スライドには要素を要約しましたが、ゲーム事業者にはおなじみのものであり、ゲームサービス内で販売される有償のポイントなどがこれに該当することはよく知られています。

最後の「※」は、JOGAの会員企業等に限定公開されているもので、一般には参照できません。

【スライド12】暗号資産と前払式支払手段とは、どちらも法令上は決済用途に用いられるものとして規律されている対象であり、かつどちらも資金決済法の規制対象であるため、その差異が問題となりやすいといえます。

ここにガイドラインの記述を引用しましたが、要するに、決済手段性があるもののうち、使われる先が決まっているものが、前払式支払手段に該当する、くらいに理解しておけばよいでしょう。ここでは詳論しませんが、前払式支払手段発行者には、届出義務や登録義務を入口として、未使用残高の一部の供託等による保全といった重たい義務が生じることとなります。

【スライド13】次は為替取引です。為替取引とは、要するに資金の移動でして、何らかの媒体を間に挟んだとしても、離れている二者間で資金が移動するようなものは、みなこれに該当する可能性があります。ただ、これはあくまで法定通貨ベースで考えた場合であっても、法定通貨が介在する余地がなければ、為替取引該当性はあまり問題にする必要がないと言えます。

もし為替取引に該当した場合に、何も規制対応のアクションを取っていなければ、銀行法違反となります。非常に重たい規制対象であると言えます。

【スライド14】さて、ようやく暗号資産の該当性です。定義自体は上記のとおりです。

【スライド15】先ほども述べましたが、典型的なNFTはERC721規格によりEthereum上で発行され、動作することとなります。そうすると、いわゆる「二号仮想通貨」に該当する懸念が生じます。

【スライド16】では当局はなんと言っているか。金融庁の事務ガイドライン改正時のパブリックコメント手続における当局とのやりとりを見てみますと、まず、まさに先ほどの疑問点に対する回答として、ERC721形式のトークンであっても暗号資産への該当性は否定されていません(なお仮想通貨の名称は、前述した2019年改正法により暗号資産に変更されました)。

【スライド17】しかし当局は同じ回答集の中で、上記のようにも言っています。これは、経済的機能に着目することで、いわゆる二号仮想通貨該当性を否定する見解です。

【スライド18】資金決済法の文言上は、そのような経済的機能の有無は、要件にはなっていません。定義だけを見ると、暗号資産に該当することは否定しがたかったのですが、当局として、法律の目的に沿って実質的な限定解釈を示したということができます。

【スライド19】ではNFTは全てが暗号資産に該当しないかというとそんなことはなく、上記のように、結局は実質的に判断する必要があります。これが冒頭に述べた、「NFTか否か」という問いに法的な意味はない、という整理に繋がります。

ここからは、ブロックチェーンゲームとして典型的に考えられるものや、これまでのスマホゲー、ブラウザゲーの延長から考えて、頻出と考えられる論点をいくつか整理します。

【スライド22】ゲームの結果を換金できるような仕組みは、RMT(リアルマネートレード)と呼ばれ自主規制の対象となってきましたが、その対策等について整理が進められていた頃にも、換金性のあるゲームは賭博に該当することも懸念される、との議論がありました。

【スライド23】ただ、賭博該当性については、前のスライドのとおり明確な基準があるわけではないため、ケースバイケースでの検討が必要となります。上記の整理については、JCBAのNFT部会における検討の場にも情報提供しております。

【スライド24】次に、景品類規制です。そもそも景品類規制は、大きく分けて「総付景品」と「一般懸賞」の規制に分かれますが、いずれについても景品類として提供できる経済的価値に金額的な制限があります。NFTに関するざっくりとした着眼点は、上記のとおりです。

ここからは、おまけ的にその他のトピックにも触れています。

【スライド26】カストディ規制については、暗号資産や有価証券に該当しない以上は法規制の対象とはなりませんが、その対象外であることについては、消費者に誤解が生じないように丁寧な説明が求められると言えます。

マネロン・テロ資金供与規制については、もしそのような形で用いられるような実態が生じてしまうと、当局としては犯収法上の規制対象であると言いたくなるはずで、既存の法解釈を乗り越えて規制を課してくることも考えられるため、そのような実態が生じないよう注意が必要です。

最後の点も同じような話で、投資という実態が生じることで、「それは集団投資スキーム持分等では?」(つまり金融商品取引法で規制されるべきでは)という考慮が働き得る点、注意が必要です。

【スライド27】税務のアドバイスは専門外ですので、こちらは単なるご参考です。

【スライド28】冒頭で述べた点です。すなわち:

  • NFTか否か、という問い自体には、法的な意味はありません。各種規制法上の規制対象(暗号資産など)の定義に照らして検討する必要があります。
  • 賭博該当性、景品類該当性の明確な否定は容易ではなく、ケースバイケースでの詳細な検討が必要となります。

以上、 速報性の観点から、2021年2月15日に日本オンラインゲーム協会(JOGA)様向けに実施したセミナーの資料を抜粋しつつ、必要な説明を追記する形で、暫定的に情報をまとめました。


「NFTアート」のオークション販売がブーム化しつつあります。しかし「アートをNFT化」といっても、実際のところ、いったい何を売っているのでしょうか。それを独占できるということは著作権でしょうか。

ここでは、アートと密接に結びつく著作権について基本的な事項を説明するとともに、実際上、NFTアートといっても著作権を売っているわけではないこと、著作権やそのライセンスをトークンに乗せて売ろうとしても法制度とマッチしないこと、を解説します。(では何を売っているのか?という問いはその意味でやはり重要で、その点は「IV. 実質的に取引されているものは何か」にて更に詳述しています。)

(4/18プチ追記)なお私は、「NFTアート」と呼ばれているものは、実際にはアートそれ自体を販売しているというよりは、アートに何らかの形で関連付けたNFTを販売するものであることを考慮すると、「NFTアート」ではなく「アートNFT」と呼ぶのが実情に合っているように思っています。いかがでしょうか。

※4/18の大幅追記部分は、さらに下のほうにあります。

1.著作権について

平たくいうと、著作権とは、その表現のコピーなどを行うことを独占し、他人によるコピーなどを禁止することができる権利です(だから伝統的に「コピーライト」と言われます)。

(1)所有権との違い

所有権との違いが重要なので、まずはたとえ話を。

私がスケッチブックを買ってきて、そこにイラストを描いたとします。そうすると、そのイラストが描かれた紙については、私が所有者であり、所有権(占有を独占する権利)を行使できます。しかし私がその紙をAさんに売ったとすると、その所有権はAさんに移り、以後私は所有権を行使できません。

これに対し、そのイラスト作品(という表現)自体は著作物となりますので、私は著作権者として、他人がそれをスキャンしたり、印刷して販売したり、ウェブ上で公表したりする行為を禁止することができます。所有権を得たAさんであっても、私が別途許諾しない限り、コピーして販売したりはできません。

ところでNFTは、データや権利を「所有」することができる技術だと説明されることがありますが、法的な意味での所有権は有体物(物理的に存在するモノ)にのみ発生しますので、「所有」と表現するのは不正確かもしれません。私は、トークンに対応する秘密鍵を管理している状態を、トークンを「保有」している、と表現するのがさしあたり適当であると考えています。

(2)著作権とは何か

著作権が発生するような創作的な表現を、著作物と呼びます。どの程度の創作性があれば良いか等、ここにも難しい論点があるのですが、本稿では立ち入りません。

著作物を創作した者が著作者であり、原則として著作者が著作権を行使できます(よって著作者=著作権者となるのが通常)。このとき、ベルヌ条約等の働きにより、世界のほぼ全域において著作権が自動的に発生することとなります(無方式主義)。(著作権自体は国ごとに発生するのですが(属地主義)、ここでは日本法上の著作権について説明しています。)

著作権は色々な行為を他人に対して禁止できる権利(支分権)の集合であり、例えば、コピーの禁止(複製権)、ウェブ送信の禁止(公衆送信権)、コピーして増やしたものの譲渡の禁止(譲渡権)、改変して新たな表現物にすることの禁止(翻案権)といったものがあります。また、翻案の結果として創作された新たな著作物(二次的著作物)についても、同様の権利を行使できます。

著作権は譲渡することが可能であり、譲渡の方式については何も制限はありません。例えば、著作権を譲渡する旨の契約を締結すれば譲渡できますし、そうした契約は口頭で交わしたとしても有効です(契約をした証拠が残りにくいのは問題ですが)。

また、著作者には著作権のほか、著作者人格権も生じます。著作者人格権もいくつかの権利の集合ですが、ポイントになりやすいのは、意に反する改変をさせない権利(同一性保持権)です。これは著作権とは異なり、譲渡できない権利です。

IT的な文脈で著作権の概略を学びたい方は、ぜひ『インターネットビジネスの著作権とルール』をお読みください(宣伝)。共著ですが、全体の半分強を私が執筆しています。

2.NFTに「著作権を乗せる」のは難しい

本題に戻ります。NFTアート作品の販売の際には、「世界に一つだけ」といった表現により、あたかもそのアート自体を独占できるかのように説明されることがあるようです。では、そのNFTには、アート自体を独占するために著作権も付随してくるのでしょうか。

そのような例は、私の知る限りありません。そして、もしあったとしても、上記で述べたとおり著作権の譲渡方式には制限がないため、著作権が必ずNFTに付随して譲渡・移転している保証があるわけではなく、その仕組み自体は相当に不安定なものとなります。

例えば、仮にAさんがBさんにNFTアートを販売する際、その著作権はNFTの移転によってのみ譲渡すべし、と契約上制限したとしても、Bさんがそれに反して(NFTの移転によらず)Cさんと契約して著作権を譲渡した場合、それは有効です。NFTはBさんのもとにあっても、著作権者はCさんとなります(A・B間の契約内容によっては、Bさんは契約に違反したことになりますが、それもCさんへの著作権の移転に影響しません)。これでは、NFTに著作権が付随するのだという触れ込みに反することになり、安心して取引できませんね。

このように、著作権それ自体をNFTにより流通させようとする試みは、それ以外の方法による著作権の移転を阻止できない点で、困難であると思われます。

余談ですが、私が金融庁専門官として改正法を立案した「有価証券のトークン化」分野でも、トークンに乗せた有価証券をトークン移転以外の方法で譲渡されてしまう可能性について議論があります。株式トークンについて、株式の譲渡方式をトークン移転に限定する方法に関する私の試論が『暗号資産の法的性質と実務』97頁に記載されていますので、ご興味のある方はぜひ(宣伝その2)。

3.著作権に基づくライセンス(許諾)の構成はどうか

著作権自体をNFTに乗せるのが難しいとしても、著作権に基づく「ライセンス」であればどうでしょうか。著作権とは前記のとおり、他人によるコピーなどを禁止する権利ですので、著作権者の許諾(ライセンス)があれば、その許諾条件に従ってコピー等をすることができます。

著作権を著作権者に残しつつ、この「ライセンス」、つまりアートを自由に利用できる地位をNFT保有者にのみ与えるというやり方についても、考察してみましょう。

(1)一方的なライセンス宣言には撤回リスクがあるため、難あり

NFT自体は転々流通し得るため、当初のNFT購入者以外がNFT保有者となり得ます。そうすると、著作権者がNFT保有者に対してライセンスを与えようとする場合、当初のNFT購入者にだけ許諾をしているだけではだめで、(将来の、未知の)NFT保有者にもライセンスが行き届くよう、公衆に対してライセンスを宣言する必要が生じます。

このようなライセンス方式は「パブリックライセンス」と呼ばれることがあり、実務上、有効なものとして扱われています。なお、パブリックライセンスの仕組みとして最も用いられているものにCreative Commons License(CCライセンス)があります。私は2009年からクリエイティブ・コモンズ・ジャパン(CCJP)に関与しており、CCライセンスについて過去に執筆した解説記事の全文を公表していますので、ご興味のある方はご覧ください(宣伝その3)。

さて、著作権者がNFT保有者だけをライセンシーとする内容のライセンスを公に宣言したうえで、NFTを販売したとします。それでNFT保有者は、以後万全にアート作品を(ライセンス条件に従いさえすれば)利用可能でしょうか。

問題となるのは、著作権者がライセンス宣言を撤回した場合です。1対1のライセンスならば、ライセンスを契約の一部とすることで一方的な撤回(契約の解除)を回避することが可能となりますが、ライセンス宣言の場合、少なくとも将来のNFT保有者との関係では現在のところ許諾関係があるとはいいがたく、一方的な撤回は有効と解される可能性があります(一般論として、撤回の可否については議論がありますし、著作権者がNFT保有者に対して著作権を行使しようとすれば権利濫用の法理などにより排斥される可能性も考えられますが…)。

上記のように解される場合、撤回後にNFTを譲り受けた者との関係では有効なライセンスは無いことになり、NFTにライセンスが付随している、という形をとることにも困難があることとなります。

加えていうと、仮にライセンス宣言の中で、ライセンシーをNFT保有者に限ること(いわゆる独占的ライセンス)を表明していたとしても、それに反する新たな許諾は著作権法上有効であり、せいぜい、NFT購入者に対する契約違反の問題を生じ得るにすぎません。特許法上の専用実施権のような、法令上の裏付けのある独占的ライセンスの方式が著作権法には存在しないためです。

(4/18追記)もっとも、上記難点は、ライセンサーが長期にわたって存続し、かつ宣言を反故にしないと信頼できるのであれば、さしたる難点にはならない可能性があります。例えば漫画コンテンツについて著作権を有する出版社が原画をNFT化するケースなど、著作権を集中して管理する大企業は、このようなケースに当たるかもしれません。

もっとも、後日あらためて整理しようと思いますが、上記のように発行者が信頼できるかどうかという点は、著作物の利用を特に前提をせず、単にアートに関するNFTを購入・保有しているという事実自体が取引の目的である場合にも重要です。この場合、ライセンス宣言の効力は問題とならず、発行者が本人/権利者であることの事実を明確に確認することこそが重要であるためです。

(1-2)ライセンス構成について補足(4/18追記)

もしライセンス宣言の中で、当該ライセンスが取消不能であると宣言すれば、後日それに反してライセンスを撤回した場合、撤回自体は依然として法的に有効と解される可能性はあるものの、当初取消不能と銘打っていた事実を立証することで、その後の著作権行使が権利濫用であり認められないと判断される可能性が高まるように思います。その点で、ライセンス構成によることの難点は緩和できる可能性があります。

上記はあくまで日本法上のお話ですが、著作権に基づくパブリックライセンスを後日取り消した場合の効果は、著作権が成立する法域ごとに異なり得ます。よって、準拠法の選択の仕方によってこの問題をクリアするという方向性もあるかもしれません。もっとも、日本法であっても、上記の権利濫用の法理に基づく整理にはそれなりの説得力があると思われ、他の準拠法を選択することのデメリット(調査コスト、紛争化した場合のコスト等)を考慮しますと、日本向けのものは日本法で良いようにも思います。

また、直接の許諾ではなく、NFT販売プラットフォームを通じた許諾の場合には、少し違った整理があり得ます。

例えば、NFT取引プラットフォームとして著名であるOpenSeaの利用規約(Terms of Service:カリフォルニア州法準拠)を見ますと、「9. User Information and Copyright」の第3段落で、コンテンツ利用についてOpen Seaに対するライセンスを付与することが定められています。当該部分を下記に引用しました(User Informationの定義がなぜか後半部分になってから出てくるので読みづらいのですが、要するに、ユーザがサービス上で投稿・送信するコンテンツ全部ですね)。

By submitting, posting or displaying User Information on or through the Services, you grant us a worldwide, non-exclusive, sublicensable, royalty-free license to use, copy, modify, and display any text, content, files, communications, comments, feedback, suggestions, ideas, concepts, questions, data or other content that you submit or post on or through the Services or through tools or applications we provide for posting or sharing such content (collectively “User Information”) for our lawful business purposes, including to provide, promote, and improve the Services.

https://opensea.io/tos

これはサブライセンス権付きライセンスですので、OpenSeaは、購入者に対しコンテンツ利用をサブライセンスすることが可能になります。同ToSには、元のライセンスが取消不能(irrevocable)である旨の記載はありませんが、出品者・OpenSea間にはToSに基づく契約が成立しているものと理解できますので、出品者による一方的な撤回という前記問題は回避できることとなりそうです(実際にはカリフォルニア州法の解釈によりますので注意)。

このようなプラットフォーム事業者を介した構成については、次の各点が問題となり得ます:

  • プラットフォーム事業者が破綻などにより消滅すると、元のライセンス関係が消滅するので、サブライセンシーに過ぎない購入者(やその後のNFT保有者)は、ライセンスに基づく利用権を主張できない可能性が高いこと
  • NFT購入希望者(特にセカンダリ取引での購入者)は、出品者のプラットフォーム事業者に対するライセンス内容、およびプラットフォーム事業者によるサブライセンスの内容が十分なものであるかをそれぞれ確認する必要があることに加え、当該サブライセンスが当初の購入者のみならず将来のNFT保有者に対しても広くサブライセンスを宣言するものであるかを確認する必要があること
  • 上記2点目からわかる通り、将来のNFT保有者(とりわけ、現在プラットフォーム事業者との間で法的な関係を形成していない者)に対するライセンスは、プラットフォーム事業者による一方的な宣言により将来に向かってなされる形になり、結局、撤回リスク問題はそこに残ること

上記3点目(ライセンス宣言の撤回リスク)については、日本法上の一定の解決策を上記で示しましたが、上記1点目(プラットフォーム事業者の消滅リスク)を考慮すると、プラットフォームを介する構成の難点は、決して小さなものではなさそうです。

(1-3)試論:著作権等管理事業法の活用 (4/18追記)

ウルトラC(古い)として、アートのNFT販売に関しては、その著作権自体を著作権等管理事業法上の管理事業者に信託譲渡し、そこからNFT保有者に対して一律の条件で利用許諾をする、といったやり方もあるかもしれません。(なお同法上の管理事業者としてはJASRACが著名ですが、ここでは、JASRACのようにコンテンツ利用者から利用料を収受する仕組みを想定しているわけではありません。念のため。)

この考え方には、下記の点でメリットがあるように思います:

  • 著作権問題をアーティスト個人や個々の販売業者から切り離し、著作権等管理事業法上の制約を受ける管理事業者のもとで、NFT保有者に対する安定的なライセンス関係を形成することができる。
  • その管理簿自体をブロックチェーン化すれば、改竄不能性や透明性を確保しつつ、取引時に権利者に対してマージンを分配するといったアレンジを(Ethereumなどのブロックチェーン上での自動執行を活用することで)同時に達成できる可能性がある。
  • 管理事業者が、著作権の信託譲渡を受けるにあたってアーティストの本人性や権利者性を確認することとなるため、権利者ではない者や本人を騙る者に対する詐欺的出品を抑止し得る。

このうち3点目が、現在のアートNFT取引における最大の難点と思われる詐欺(scam)リスクの払拭につながる点では、一番大きなメリットとなり得ると考えています。もちろん、これを著作権等管理事業者が担う必然性はありません。しかし、法的な裏付けのない私的な認証団体や、NFT取引を増やすことにインセンティブがある販売業者による本人確認よりもベターではあるし、本人確認に加えて権利関係の確認を兼ねるのであれば、なおさら適役かと思います。

もちろん、そもそも著作権等管理事業者となること自体が簡単ではなく、創作物のNFT取引が活発化する前にはそのコストを誰も負担できそうにない、といった現実的な問題は理解しつつも、ある種の理想的な到達点の一つとして、試論的に述べてみました。

(2)スマートコントラクトによるルール構築の限界

多くのNFTはERC721に準拠して発行され、Ethereum上で移転可能です。では、Ethereum上で著作権の譲渡や独占的ライセンスが意図したとおり確実に実施されるよう、スマコンによる自動執行の仕組みを活用することは考えられるでしょうか。

これは現在の法制度上、困難と考えます。著作権の発生、保有、移転、行使、許諾をブロックチェーン上の記録に委ねるよう疑似的にスマコンを記述できたとしても、それがここまで述べてきた著作権法上の帰結を不特定多数との関係で上書きすることはなく、あくまで、そうした約束に参加しているグループの中で(契約に基づく制約として)有効となり得るものにすぎないためです。

このように、著作権の発生、保有、移転、行使、許諾といった関係をチェーン上で完結させることはできず、究極的には裁判所において判断・執行されることとなります。

(3)契約形式ではどうか

ライセンス方式には、撤回リスクという難点がありました。では、一方的な撤回を難しくするため、契約という形式を利用するアイデアはどうでしょうか。契約の場合、原則として、一方当事者が勝手に解除して契約関係を終了することができないためです。

具体的には、著作権者とNFT購入者との間でライセンスを含む契約を締結し、その契約の中で、契約当事者(のうちNFT保有者)としての契約上の地位を、NFTの移転とともに新たなNFT保有者に移転する旨を定める方法です。こうすることで、著作権者とNFT保有者との間の契約関係はNFTに付随して動いていくことになるし、著作権者による一方的な撤回という問題も回避できそうです。

著作権者自身がNFT購入者との間で直接の取引を行い、契約を締結するという場面は多くなさそうです。アーティストから作品のNFT化や販売を委ねられた事業者がいるというケースのほうが多いのではないでしょうか。もっとも、この場合でも 、事業者が著作権者から適切に代理権を得て、代理人として契約を締結することで、著作権者を契約当事者として契約を成立させることは可能です。

ここまでやったとしても、著作権者が著作権を譲渡してしまうリスクは排除できません。著作権法上、著作権の譲渡自体を禁止する方法はなく、上記の契約上で譲渡禁止の旨が明確に定められていたとしても、いったん譲渡されてしまえば、それは契約違反の問題となるにすぎません。

もっとも、ライセンシーとしての利用権(許諾された利用方法や条件の範囲内で著作物を利用する権利)自体は、著作権法上、著作権が譲渡されたとしても新たな著作権者などに対抗することができます。そのため、契約上の様々な約束はともかく、少なくとも、もともと許諾されていた利用方法と条件の範囲内であれば、ライセンシーは引き続きアート作品を利用することが可能です。

ただし、この利用権は、著作権者の承諾なき限り譲渡できないことが著作権法に定められています。そのことが更に問題になりそうです。

当初のライセンス契約は、ライセンシーがNFTを譲渡した場合、NFTの新たな保有者に対して(ライセンシーとしての)契約上の地位が丸ごと移転される(著作権者はそれを予め承認する)、といった内容とすることが可能だと思います。しかし、著作権が譲渡された場合、著作権法上、ライセンシーが新たな著作権者に法律上対抗できるとされているのは「利用権」のみであるため、その元となった契約上の地位(権利義務関係)がそっくり新たな著作権者に引き継がれていると考えることは困難です。そうすると、著作権者が変わって以後にNFTを譲り受けた者は、 新たな著作権者から「利用権」の移転について承諾を得ない限り、アート作品を利用できないこととなってしまいます。

このように、著作権の譲渡が起きた場合、その時点でのNFT保有者は、NFTの譲渡先によるアート作品の利用が難しくなることで、そのNFT自体が譲渡価値を失いかねないリスクに直面することとなります。この問題を契約や仕組みによりどこまで克服できるかは、私も更に考えてみたいと思っています。

そして、著作権が譲渡されてしまえば、NFT保有者は新たな著作権者に対し、ライセンシーとして振る舞うことはできません。著作権法上、譲渡前に存在していた許諾を譲受人(新著作権者)に対抗することができないためです。言い換えると、新著作権者から著作権を行使されてしまえば抗う方法がなく、勝手に譲渡してしまった旧著作権者に対し、損害賠償請求をするくらいしかダメージを回復する方法がなさそうです。(4/20訂正)令和2年著作権法改正により、著作物の利用権についての当然対抗制度が導入されました(同法63条の2)。これは、著作権が譲渡されてもライセンシーは新たな著作権者などに自らの利用権を対抗できるというもので、上記取消し部分に書いた問題は、同改正の施行日(2020年10月1日)以後の譲渡からは解消していることとなります。お詫びのうえ訂正いたします。なお、それでも問題点があることは、上記に新たに追記したとおりです。

なお、この問題は何も契約方式に限った話ではなく、(1)で述べたライセンス宣言の方式にも内在している問題です。

(4)NFT保有者だけがアート作品を楽しめる、という方式ではどうか

視点を変えてみましょう。著作権から離れて、著作物であるアートに対するアクセス自体をNFT保有者に限定してしまう方式はどうでしょうか。例えていえば、一人だけが入れる映画館の入場券が発売され、流通するようなイメージです。

しかしこの場合、ブロックチェーン上にアートの内容自体を記録して、しかもNFT保有者だけが暗号を解除して作品を参照できるような形でスマコンを構築する、といったやり方を採れるような稀なケース(小さなドット絵であるなど作品自体のデータサイズが小さい場合)を除き、作品自体はブロックチェーン外に置く必要があり、そのインフラや作品を楽しむプラットフォームなどのサービスに依存することとなります。

データの永続性やチェーン上で完結する処理自体は、例えば、IPFSの仕組みとPolkadotのようなチェーン間連携技術を組み合わせることで実現可能かもしれません。しかし、NFT保有者以外が確実にアートを楽しめない(アートデータが外に出て行かない)仕組みを実現しようとすると、そのアートを楽しむ方法自体を制約する何らかのシステムが必要であるように思います。

そうすると、結局は特定のサービスへの依存は避けられないこととなり、当該サービス自体の存続可能性がリスクとなります。(4)冒頭で述べた例でいうと、入場券という紙片自体は映画館がどうなろうが手元に残りますが、映画館がつぶれれば紙くず同然になるという問題です。他の利用方法があれば別ですが。

NFTアートの場合は結局、アート作品自体は公表されているのが通常で、保有者だけが楽しめるという形式のものは稀であるように思います。例えば3月には、オークション販売されたBeeple作のNFTアート「EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS」が約75億円で落札され世界の話題をさらいましたが、同作品の元データ自体はIPFS上で保持されており、誰でもダウンロード可能です(リンクはこちらなんと304MBもありますのでお気をつけください)。

Beeple (b. 1981) EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS

余談となりますが、むしろサービスへの依存度が典型的に高いのは、II.の解説で想定しているブロックチェーンゲームです。

典型的なブロックチェーンゲームは、ある特定のサービス上で利用できるキャラクターやアイテムなどがNFT化されていて、(NFTなので)サービス外で取引でき、もしかしたら他のゲームやサービス上でも利用可能かもしれない…といった風情です。その特質を生かして、他社ブロックチェーンゲームとのコラボや自社の複数タイトルでの活用といったサービスをまたいだ活用事例もみられますが、現状は、もとのゲームサービスに大きく依存している例がほとんどであるように思います。

4.まとめ

(最後は少しわき道にそれつつも)ここまで著作権という切り口でNFTアートを見てきましたが、いかがだったでしょうか。

結局、販売対象となるNFTと著作権とを結び付けようとする試みには、著作権そのもの、そのライセンス、ともに難点があるといえます。そのためか、実際のNFTアートの事例でも、著作権と関連づけない形で販売されているものがほとんどでしょう。

では、NFTアートとして販売されているものは、いったい何なのでしょうか。これは後日、さらに解き明かしていきたいと思います。


IV. 実質的に取引されているものは何か(5/18追記)

いよいよ本丸(?)。

「NFTの取引」というときに、実質的に何がその対象となっているのか(人々は何を買っているといえるのか)、整理してみたいと思います。現在はこの点が非常にあいまいなまま実態が先行している面があり、専門家の間でも議論は煮詰まっていない状況ですので、いち試論的なものとしてお考えください。

以下では、「NFT化」される対象が特定のサービスから離れて明瞭といえる「アートNFT」と、これとは逆に特定のサービスであるゲームサービス上で利用することが主に想定されている「ゲームNFT」とを想定し、それぞれの本質を探ってみます。

ところで、巷では「NFTアート」という表現を非常によく目にしますが、実際にはNFT自体が芸術作品というより、芸術作品に関連したNFTが販売されているという点で、「アートNFT」と表現したほうが正確であるように思います。

世間ではあまり見かけない表現ですが、ここでは「アートNFT」の呼称で統一しておきます。

まずは、提供されるコンテンツに対応する具体的なサービスなどが存在しない、ただ作品だけが存在するという点でシンプルである「アートNFT」から整理を始めます。

1.アートNFTを保有することの本質とは

著作権やそのライセンスという観点から、販売の対象をうまく説明できそうにないことは、「III. NFTアートと著作権」ですでに解説しました。

では、「アートNFT」として購入されているものは、いったい何でしょうか。「コピー可能なデジタルアートを唯一のものとして所有できる手段が生まれた」「NFTを通じてデジタル所有権を取引できるのだ」…色々な言い方がされますが、それはアートNFTの本質を正しく言い表しているでしょうか。結論からいうと、こうした「所有」という言葉を使うと、本質をあまり正しく描写できないように思います。

私は、例えば前記したBeepleの「EVERYDAYS: THE FIRST 5000 DAYS」のように、NFT化されたデジタルアート自体が公表され誰でもアクセスして鑑賞できる状況は、個人所有の絵画作品が出入り自由な美術館で展示されている状況とかなり似ていると考えています。

絵画作品の所有者は、いざとなれば所有権を主張できるわけですが、敢えて美術館に貸し出すことにより、自らが(アーティストに対価を還元した)パトロンとなり公衆に美術を提供しているのだという「満足感」を購入し、享受し続けているといえます。そして、その絵画作品には売却可能性があり、他人が勝手に売却したりできませんので、資産としても機能します。

同じことが、アートNFTの購入者についてもいえます。NFTの保有者は、アーティストに対してNFT購入を通じて対価を還元するとともに、自らが(アーティスト公認であるという意味で)公式のパトロンとなることによって、自らの出費により公衆にデジタルアートを提供しているのだ、という「満足感」を購入し、享受し続けているといえそうです。しかも、そのNFTにも売却可能性があり、他人が勝手に売却したりできませんので、資産としても機能し得ることになります。

両者を並べてみましょう。

公に展示されている絵画作品、とその所有権 公開されているデジタルアート、とそのNFT
誰でも訪問して作品を鑑賞できる誰でもアクセスして作品を鑑賞できる
所有者は著作権を有しているわけではない保有者は著作権を有しているわけではない
所有者は「パトロン」扱いされる保有者は「パトロン」扱いされる
所有者は作品を売却し所有権を移転できる保有者はNFTを売却し移転できる
(公開を中止しいつでも持ち帰れる)(作品の公開を止める術はない)

実質的な違いがあるとすれば、最後の点です。NFTの保有とは、典型的な場合、当該NFTの存在を示す残高を他のアドレスに移転できるのが、その移転のトランザクションを起こすために必要な秘密鍵を知る者(通常は自分だけ)に限られるという事実状態をいいます。これは所有権と違い、いざとなれば展示物を自らの占有のもとに引き上げる法的な権利を導くものではありません。

もっとも、この点を除けば、デジタルアートのNFTとは、個人所有の絵画作品が展示のため無償で提供されているのと同じように、「アーティストのパトロンとしての地位」を購入でき、しかもそれが容易に取引できて、さらにはその都度アーティストへの還元が発生するかもしれない仕組み(これは設計次第)、と言うことができそうです。

このように、取引の都度アーティストに取引金額の一部が還元される仕組みを「追及権」ということがあり、フランス著作権法などが導入しています。アートNFTの利点として、このような対価還元の仕組みを実装できることが挙げられることがありますが、実際には特定の取引プラットフォームに依存する仕組みであることが多いように思います。

この取引可能な「パトロンとしての地位」は上記のとおり事実状態であって、何らかの権利を裏付けとするものではありません。それでも、アート自体は、例えばIPFSを利用する場合、誰も顧みないデータと化したりしない限りは半永続的にネットワーク上での保管とアクセスが確保されるため、 「パトロンとしての地位」 も半永続的に存続し得ます。あくまで可能性レベルの話ですが、100年後に教科書に載るような美術作品のパトロンとして君臨できるかもしれない、というわけです。

このような事実状態を排他的独占的に主張できる状態を指して、「デジタル所有権」と呼ぶことも、あり得なくはないと思います。しかし、繰り返し述べているように、これは事実上の地位にすぎず、法的な裏付けを持つものでないことからすると、「所有権」という言葉を用いることにはかなり抵抗があります。

2.アートNFTの本質から生じ得る問題

上記のような本質から問題が生じるとすれば、次の2点でしょう。

① そのNFTを発行しているのはアーティスト本人か?(アーティスト公認のパトロンと明確に主張できるか?)

② そのNFTの唯一無二性が失われることがないか?(アーティストが他のプラットフォーム等を利用して同じ作品を更にNFT化することはないか?)

このうちは、販売プラットフォームによる本人確認機能という問題に整理し直せます。Beepleのアートでいうと、オークションハウスであるChristiesが、Beeple本人が自身の作品を(NFTとして)出品したことを確認し保証する機能を果たしてくれれば、問題ないわけです。購入者は、アーティスト本人による出品であることを、販売プラットフォームがどう確認しているか?信頼できる販売者か?といった点をしっかり確認すべきであるといえます。

これに対しは、対処が難しい問題です。NFTを作る方法は一つではなく、色々な手段やサービスを使って同じアート作品をNFT化できる可能性があるためです。たとえアーティストが、NFTの販売時に「他にNFTを発行しない」と約束していたとしても、その違反は契約問題を生むだけであって、NFT自体は発行できてしまいます。よって結局は、アーティストを信用できるかどうかという問題に帰着してしまうことになります。

もっとも、この問題はデジタルアート以前から、アート取引の長い歴史の中で繰り返されてきたともいえます。例えばロダンの彫刻作品「考える人」は、オリジナルがいくつも存在します(私の留学先のキャンパス内にも「地獄の門」の一部として鎮座していました)。版画作品であれば、より状態が近いものを複数制作することもできます。アーティスト本人が「これは1つだけだ」と述べたとして、それを信用する以外に、唯一性を確実に証明する手段がない場合も考えられるわけです(もちろん有体物であれば、どれだけ似せても微妙な差異は生じるわけですが)。

最初にNFT化されたものに価値があるとか、隠れて作られた2つ目のNFTに後日注目が集まるようになるとか、そうした文脈とともに価値が認識されることもあるでしょう。商品やその消費には、少なからずそうしたエピソードやコンテクストが伴います。それらを一切捨象して、NFTは複数作れるから無意味だ!と論じることは、却ってアート取引の実態を反映しない議論となるかもしれません。

余談ですが、Twitter創業者ジャック・ドーシーの最初のツイートをNFT化したら3億円超の値がつき話題となったValuablesは、Twitterアカウント保有者のみが自身の特定のツイートを一度だけNFT化できるという仕組みを採用しているため、本人確認機能をTwitterに外注する形で問題①を解決するという、興味深い事例です。

もっとも、ジャック・ドーシーが別の類似サービスを用いて同じツイートのNFTを再度販売することは抑止できず、問題②が解決されているわけではありません。

3.少し脱線:利用券付きNFT?

少し脱線しますが、アーティストがトークン保有者に対し、ライセンスすなわち著作権の不行使約束という不作為義務を超えて、何らかの義務を負うという構成を考えてみましょう。

この権利義務関係は契約に基づくものであり、契約当事者としての地位がトークンとともに移転するという点を、NFTの発行・販売契約の中に盛り込むこともできそうです。トークン保有者はこの場合、発行者に対し、その債権者としての地位を主張できる立場となります。ファンジブルなトークンのうち「ユーティリティトークン」と同じようなものだと言ってもよいかもしれません。利用権付きトークン、と言い換えてもよいでしょう。

もし、その「利用権」の消費回数に限りがあるとすれば、そのプライマリ販売は、資金決済法上の前払式支払手段の発行に該当しそうです。アイドルやスポーツといったファンビジネスに関しては、こうしたユーティリティつきのNFTを販売する可能性も語られますが、回数制限があるものを付与するやり方は、購入者自身による消費をもっぱら想定し、トークンが転々流通することがあまり念頭にないように思われます。そのようなものは、端的にチケットのような形で販売すればよく、取引可能性がポイントの一つであるNFTとして発行することの意義は薄いように感じます。

逆にいえば、転々流通することを前提とする利用権付きNFTは、その利用権の内容が定期的に又は永久に提供されるものであるほうが、NFTのコンセプトとは整合的です。例えば、あるサービスを永久に利用できる、定期的に何かがもらえる、といった具合です。

もっとも、いずれの場合であっても、サービス提供主体が存在し続けることが前提となるため永続性には疑問がありますし、定期的な給付を伴うものに至っては、仕組み次第では金商法上の有価証券に該当する可能性も懸念されます。発行者が約束を果たすかどうかに大きく依存し得る点では、昨年サービスが終了した「VALU」にも似たものかもしれません。

4.「ゲームNFT」というとき、何を売っているのか

2017年からNFTのユースケースとして知られ、現在もメジャーな活用分野といえるブロックチェーンゲームの場合はどうでしょうか。「ゲームNFT」の特質は、例えばJCBA「NFTビジネスに関するガイドライン」では下記のように整理されています。

https://cryptocurrency-association.org/nft_guideline/

ゲームNFTに関連して当然に発生する法的な意味での「権利」といえそうなのは、そのトークンを、対応するゲームサービス(ブロックチェーン自体を動作させるようなものと、サイドチェーン技術を活用するなどしてチェーン外で提供されるものとがある。)において使用して遊ぶことができるという、サービス提供者との間の債権的な権利(利用規約に基づき発生する契約上の権利義務)です。特定のサービスやサービス提供者から離れて、何らかの権利を世の中に対して主張可能であるとはいえない点で、やはり、これを「デジタル所有権」とまで呼ぶことは難しそうです。

また、ゲームNFTが複数サービスで利用できる将来的な可能性は、少なくとも発行の時点では抽象的です。そうすると、利用可能な特定のサービス自体の価値の高まりへの期待や、将来における他のサービスでの利用可能性が、どこまでの具体性をもって実現される見込みがあるかによって、当該ゲームNFTの現在における実質的な価値が決まってきそうです (実際には、それを超えた投機的な期待から取引価格が形成されている側面もありそうですが) 。

いずれにせよ、現在や将来における具体的なサービス提供の有無に依存する構造である点で、NFT化の対象自体に本源的価値がありそうなアートNFTとは、大きく異なるといえます。ゲームNFTの購入者は、そのゲームNFTにはなぜ価値が付いているのか?売却益への期待以外に価値を感じることができるか?といった点をよく考えてから取引を行うべきであるといえます。

ゲームと、ゲーム内アイテム等のゲーム内外における換価可能性については、賭博該当性、景品類該当性、RMTの自主規制との関係といった特有の問題が多くあります。「II. NFTの法的論点(暫定版)」のスライド22以下をご覧ください。

5.小括:地に足ついた議論を

ここまで見てきたように、アートNFT・ゲームNFTには、いずれも「デジタル所有権」と明確に表現できるような法的な権利が載っているわけではありません。そうであるにもかかわらず取引実態が生じるのは、アートの場合には取引可能な「パトロンとしての地位」を得ることによる満足感、ゲームの場合には特定のゲームサービスで使用できるという現在または将来の実需、といった点に実質的な価値があると考えられているからだといえます。

ただ、現在の取引状況をみますと、上記の観点から評価され得るであろう価値を大きく超えるような高額な取引が行われている実情も見受けられます。将来的な利用可能性やその拡大といった抽象的な期待感は背景にあるにしても、実需からかけ離れた投機という側面があることは否定しがたく、そうした実態を伴わない盛り上がりは、かえってNFT活用の健全な発展を阻害しかねないと懸念します。

ブロックチェーン技術や、それを活用したNFTというコンセプトは、現在の社会の仕組みを変え得る大きなポテンシャルを秘めています。トークンを活用した分散プロジェクトの発展は、ICOへの過度な投機マネーの流入や詐欺的事案の多発により大きく阻害されました。この失敗を繰り返してはならないはずです。

ブームをブームで終わらせず、着実にNFT活用の事例を積み重ねるためには、NFTを購入しようとする消費者のみならず、ブロックチェーン事業者の側にとっても、商品である「NFT」の実像を理解し、地に足をつけて議論をすることが求められていると考えます。

実務上は、何が販売されているのかを、事実や技術のみならず、法的な面をも考慮してできるだけ明瞭に説明し、関係当事者や消費者における誤解を避けることが重要でしょう。しかし、消費者のリテラシー向上に期待するのは当面は難しく、また個々の事業者の謙抑的な対応にも限界があります。

NFT分野の健全な発展のためには、主に次の点が必要と考えます:

  • 法律実務の蓄積による法解釈の安定化(本記事がその端緒となれば幸いです)
  • ブロックチェーン業界での自主的なルール整備(当職も関与したJCBA「NFTビジネスに関するガイドライン」はその一例です)

V. これからまとめたいこと・雑感

1.今後まとめたい点(5/18更新)

ほかにも追記していきたいと思います。

2.懸念していること、今すべきこと (5/18更新)

ここで述べていたことの多くは、前記「IV.」の小括部分に移設しました。

ブロックチェーン・NFTの健全な発展を通じて、世の中に更なる価値がもたらされることを願って、本記事を公表しました。本記事が、NFTをめぐる「地に足のついた議論」の一助となれば幸いです。