【判例解説】 Google Books訴訟 フェアユースを認めた控訴審判決 Authors Guild, Inc. v. Google, Inc., 804 F.3d 202(2d Cir. 2015)【月刊コピライト 2016年4月号掲載】

月刊コピライト2016年4月号に掲載させていただいた拙稿の全文を、発行元のCRICさんからご了解をいただき転載します。本記事の著作権は小職に帰属しています。

なお、最後にも追記しましたが、本記事の発表後である2016年4月18日、連邦最高裁は、原告らによる裁量上訴の申立てを受理しない決定を下しました。これにより、Google Books訴訟はGoogleの勝訴という形で終結しています。

編集注記:

  • 機種依存文字や脚注の表示方法など、一部体裁が変更されています。
  • 追加ないし変更した箇所がある場合、当該箇所を赤字にしてあります。

「月刊コピライト」 (著作権情報センター) 2016年 4月号 45~53頁

Google Books訴訟 フェアユースを認めた控訴審判決
Authors Guild, Inc. v. Google, Inc., 804 F.3d 202 (2d Cir. 2015)

弁護士 増田 雅史

はじめに

Google Books訴訟として知られている米国のクラスアクション訴訟について、第2巡回区連邦控訴裁判所(以下、「本裁判所」という)は2015年10月16日、被告であるGoogle Inc.が行った膨大な書籍のスキャン及びデータベースの作成、並びにその後の検索サービスの提供等の行為が、連邦著作権法上のフェアユースに該当するとの原審判断を維持する判決を下した[1]

[1] 本件を「連邦巡回区控訴裁判所」(CAFC:Court of Appeals for the Federal Circuit)の判決として紹介するニュース記事等が散見されるが、正しくは「第2 巡回区連邦控訴裁判所」(Court of Appeals for the Second Circuit)である。連邦控訴裁判所のうち、CAFCは米国全域における特許事件等の専属管轄を有する特殊な裁判所であって、著作権事件は管轄外である。本件は、通常の管轄決定ルールに則り、南ニューヨーク地区連邦地方裁判所が属する「第2巡回区」の連邦控訴裁判所で審理された。

本稿においては、本件が我が国において注目されるに至った背景を含むこれまでの経過を振り返るとともに、今般の判決を紹介する。

1 事案の概要

まずは、事実関係及びこれまでの経過を整理する[2]。本件のクラスアクション手続における和解の試みとその失敗は、本判決とは直接関連しないものの、本件が出訴から10年を経過しても解決をみていないことの主因であり、かつ、全世界的な議論の対象となった事柄であることから、その概要を併せて述べる。

[2] 2014年6月時点までのより詳細な経過は、筆者が整理した時系列表(本誌2014年9月号6頁)を参照されたい。

(1) 当事者

原告ら(上訴人ら)は、全米作家組合(The Authors Guild, Inc.)及び自著の著作権についての法的又は授益的権利者である個人3名[3]である。

[3] The Trouble with Thirteenの著者Betty Miles、Ball Fourの著者Jim Bouton、The Superlawyers: The Small and Powerful World of Great Washington Law Firmsの著者Joseph Goulden。

被告(被上訴人)は、営利企業であるGoogle Inc.である。同社は、原告個人3名の著書を含む膨大な書籍を許可なくスキャンし、後述するGoogle Booksにおいて、インターネットのユーザーによる検索及びスニペット閲覧に供している。

(2) Google Booksとは

Googleは2004年12月、大学等の図書館の蔵書をデジタル化して検索可能にする“Library Project”を発表し、議会図書館、ニューヨーク公立図書館及び複数の大学図書館との合意に基づき書籍のスキャン及びデータベース化を進め、2005年11月より検索サービス“Google Book Search”の提供を開始した。これが、現在のGoogle Booksである[4]。Googleによりスキャンされた書籍の数は、2015年10月の時点で2500万点に達している。

[4] https://books.google.com/

同サービスのユーザーは、書籍のタイトルその他の書誌情報のみならず、書籍全文を対象とした検索を行うことができ、検索結果中には通常1ページの8分の1の大きさのスニペット(検索用語に関連した箇所の抜粋)が、最大で3件まで表示されうる[5]。著作権の保護期間が満了した書籍は、同サービス上で全文を閲覧することができる。

[5] 書籍本文の検索及びスニペット表示が可能なものは、Googleによりデジタルデータ化・インデクシングされた書籍に限られる。日本語書籍の多くは、その対象外である。

スニペットの表示には一定の制限がある。具体的には、書籍全体のうち少なくとも10%以上はスニペットとして表示されず、また、辞書、レシピ、短文詩(haiku)の書籍はスニペット表示から除外されている。

Googleは、プロジェクトに参加した図書館(以下、「参加図書館」という。)らとの個別の協定[6]に基づき、各図書館に対し、自身が提供した蔵書のデジタルコピーをダウンロードできるようにしている[7]。同協定は、各図書館に対し、ダウンロードしたデジタルコピーの利用に際し著作権法を遵守し、データが一般に出回らないよう予防措置を講じることを求めている。各図書館は、本判決の時点までに、同機能を通じて270万点のデジタルコピーをダウンロードしている。

[6] Googleとミシガン大学との間の協定の一部が、判決文中に例示されている。
[7] Googleが各図書館に対し、Google Return Interface (GRIN)へのアクセスを与えるという形で行われる。

(3) クラスアクション訴訟の提起

原告らは、2005年9月、Googleによる以下の各行為が著作権侵害に当たると主張し、南ニューヨーク連邦地方裁判所(以下、「地裁」という。)に対し、クラスアクション訴訟を提起した。

  • 書籍をスキャンしデジタルコピーを作成する行為
  • 書籍のスニペットへのアクセスを公衆に提供する行為
  • 参加図書館に対し書籍のデジタルコピーを配布する行為

2005年10月には、大手出版社5社も同様の訴訟を提起し、両訴訟は2006年10月に併合された。

Googleはこれに対し、連邦著作権法(Copyright Law, U.S. Code Title 17)107条のフェアユース(Fair  Use)規定により、上記行為はいずれも著作権を侵害しないと抗弁して争った。フェアユース規定の詳細は後述する。

クラスアクションとは、共通点を持つ一定の範囲の者を代表して、一人又は複数の者が、全員のために原告として訴え又は被告として訴えられる訴訟形態であり、本件のような連邦裁判所におけるクラスアクションの手続は、連邦民事訴訟規則(Federal Rule of Civil Procedure)23条が規律する。当該一定の範囲を「クラス」といい、クラスのメンバーは、当該訴訟に直接参加せずとも結果に拘束される。クラスアクションは大きく3類型に分類されるが、本件は、そのうち最も利用が多く、3類型の中で唯一、クラスアクションとするかどうかが直接の訴訟当事者によって任意に選択される類型である「オプトアウト型クラスアクション」に該当する。同類型では、クラスメンバーがクラスからオプトアウト(離脱)することにより、判決や和解の効力が自らに及ぶことを避けることができる。同手続を和解により終結するためには、裁判所の承認を得る必要がある。

本件においては、地裁は当初、「ミシガン大学図書館の蔵書の著作権者」といった範囲を原告クラスとして認証していた。

(4) 和解の試みとその失敗

両当事者はその後、長期にわたる交渉の結果、2008年10月28日付の和解契約書を内容とする和解の合意(以下、「旧和解案」という。)[8]に至った。この際、米国出版社協会(The Association of American Publishers)が新たに原告代表者として参加するとともに、原告クラスの範囲が変更された。地裁が認証したクラスの範囲は、大要、「2009年1月5日までに公表された書籍等について、連邦著作権法上の著作権等の権利を保有しているすべての者」であった。

[8] 旧和解案及びそれまでの事実経過の詳細について、松田政行=増田雅史「Google Book Searchクラスアクション和解の実務的検討(上) (下)」NBL 905号(2009)7頁、NBL 906号(2009)88頁。

ここで、ベルヌ条約(文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約)やTRIPs協定(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)の効力により、これらの加盟国間の国民にも、書籍等の創作の時点で当然に、連邦著作権法上の権利(要するに米国の領域内における権利)が発生しているため、各国民は容易に原告クラスに含まれることになる。つまり、クラスの範囲が上記のように変更されたことで、本件の影響は全世界の著者・出版社というべき範囲にまで拡大されたこととなる。そのため、2008年11月に地裁が旧和解案を予備承認し、その内容が知られるにつれ、我が国を含む世界各国において、大きな混乱を生じた。

旧和解案は本文だけで134ページにも及ぶものであるが、その帰結の概略は以下のとおりである。

  • Googleは引き続き、書籍をスキャンし、デジタルコピーをデータベースに蔵置することができる。
  • Googleはこれに加え、データベース中の書籍の閲覧権を販売し、プレビューページ等に広告を表示するなど、商用利用することができる。
  • Googleは、収益のうち63%を「レジストリ」と呼ばれる機関に支払い、レジストリは経費を控除した残りを権利者に分配する。
  • レジストリとは、権利者及びその権利行使に関する情報を集積し、権利者に対する支払いや紛議を調整するための非営利機関である。
  • 権利者は、レジストリに自らの情報を登録することにより、上記収益の分配を受け、また、Googleによる上記利用を禁止することができる。

以上のとおり、旧和解案によってGoogleに認められる行為は、当初争われていた行為にとどまらず、書籍の全文表示等にまで及んでいる。これは、書籍の利用についてGoogleに包括的な許諾を与える一方、権利行使のための機関を通して権利者への収益分配を行うという、壮大な電子書籍の流通スキームといえる。

このような仕組みの構築に至った背景といわれるのが、いわゆる孤児作品(Orphan Works)問題である[9]。「孤児作品」とは、権利者の存否やその所在が不明な作品をいい、著作権が創作により自動的に発生する現在の法体系の下では、使用許諾を求めるために権利者を捜すことがそもそも不可能であるか、少なくとも過分なコスト負担が発生するため、その活用が阻害されているとの指摘がある。

[9] 城所岩生「著作権法改革が必要なこれだけの理由〔下-1 〕」国際商事法務43巻9号1370~1371頁参照。米国著作権局は、孤児作品問題について特設のウェブページを設けている。http://www.copyright.gov/orphan/

訴訟当事者らは、クラスアクションという特殊な司法手続において、ベルヌ条約等の下であらゆる国の著者が米国法上の著作権を有するという状況を利用し、全世界ともいうべき極めて広範なクラス認証を得た上で、争いの範囲を大きく超えたビジネススキームを盛り込み、それに対する権利者の許諾を擬制する和解案を構築した。これは、「許諾なければ使用不可」という法の原則を逆転し、孤児作品問題を一挙に解決しようとする、極めて野心的な試みであったと評価できる。

もっとも、同手続に不意に巻き込まれる形となった米国以外の国からの反発は強く、また、米国政府も和解に反対する意見書を提出した。これを受けた地裁は、訴訟当事者に対して和解案の修正を求め、2009年11月、新たな和解案が提出された[10]。しかし地裁は結局、2011年3月、これを承認しない決定をした[11]

[10] 同和解案及びそれまでの事実経過の詳細について、松田政行=増田雅史「Google Books問題の最新動向および新和解案に関する解説(上)(下)」NBL 918号(2009)38頁、NBL 921号(2010)50頁。
[11] Authors Guild, Inc. v. Google, Inc., 770 F. Supp. 2d 666 (S.D.N.Y. 2011). 評釈として、松田政行=増田雅史「Google Books和解案の不承認決定に関する解説」NBL 953号(2011)32頁。米国政府からはその後、著作権局局長であるMaria Pallanteにより、著作権法の全面的な見直しが提言されている。石新智規=山本夕子(訳)「次世代の偉大な著作権法」知的財産法政策学研究45号(2014)33頁。

その後も当事者は和解の可能性を模索したが、協議が難航したため、全米作家組合を中心とする原告らは、2011年10月、第4次修正訴状を提出するとともに、6名の作家[12]を原告クラスの代表とするクラス認定申立てを求めた。地裁は2012年5月にこれを認めたが、Googleによる控訴を受けた本裁判所は、2013年7月、地裁によるクラス認定を取り消した上で、Googleの行為がフェアユースに当たるか否かを先行して判断すべきであるとして、審理を差し戻した[13]

[12] このうち3名はその後訴訟を離脱したため、本判決には、残る3名及び全米作家組合が原告かつ上訴人として記載されている。
[13] Authors Guild, Inc. v. Google, Inc., 721 F.3d 132 (2d Cir. 2013)

なお、和解案を検討する中で当事者に加わっていた全米出版社協会は、この間、別途Googleとの間で和解協議を重ね、2012年10月、両当事者間で訴訟外の和解が成立したことを公表した[14]

[14] 同和解について、松田政行「グーグル・ブック訴訟の動向出版社がGoogleに対する大規模書籍デジタル化訴訟を取り下げ、全米作家組合のクラスアクション訴訟は継続」NBL 989号(2012)14~15頁。和解の詳細は非公表である。

そして地裁は、2013年11月、Googleの行為がフェアユースに当たるとのサマリ・ジャッジメント[15]を示した。原告らは2013年12月、上訴の申立てを行った。

[15] Authors Guild, Inc. v. Google, Inc., 954 F. Supp. 2d 282 (S.D.N.Y. 2013). 評釈として、石新智規「Google Books事件の示唆するもの」上野達弘=西口 元編著『出版をめぐる法的課題 その理論と実務』(日本評論社、2015)412頁、松田政行=増田雅史「Google Books訴訟においてフェアユースを認めたニューヨーク南部地区連邦地裁の判断について」NBL 1019号(2014)42頁。なお、サマリ・ジャッジメントとは、連邦民事訴訟規則56条に基づいて当事者が申立て、正式な事実審理を経ないでなされる判決である。重要な事実に関して争いがなく、法律問題だけで判決できる場合に、陪審の審理を経ることなく下される。

(5) 関連事件:HathiTrust訴訟

関連事件として、「HathiTrustプロジェクト」に関する訴訟の動向も注目を集めた。HathiTrustとは、前記した参加図書館により構成される、Googleが作成した書籍のデジタルコピーの共同管理を目的とする組織である。具体的には、各図書館がGoogleから提供を受けたデジタルコピーを、さらに“HathiTrust Digital Library”[16]に寄贈させることで、フルテキスト検索等の情報提供サービスを一元的に提供している。

[16] https://www.hathitrust.org/

全米作家組合らは、同プロジェクト及び参加大学らを被告として、本件と同じ地裁において、著作権侵害訴訟を提起した。

本件と比較すると、被告大学らによるデジタルデータの利用が非営利・教育目的であり、また、著作権で保護されている作品であって権利者から利用許諾が得られていないものについては、検索語句が掲載されているページ数及び当該ページごとの当該用語出現頻度のみが表示される(スニペットは表示されない)という点が主に異なる。もっとも、書籍の利用態様それ自体には共通する点も多かったことから、本件の審理の行方を占う訴訟として注目されていた。

地裁は2012年10月、被告大学側によるデジタルデータの利用行為はフェアユースに当たると判断した[17]。原告らはこれに上訴したが、本裁判所は2014年6月、デジタルコピーを利用した全文検索サービスの提供行為がフェアユースに当たることを重ねて認めた[18]

[17] Authors Guild, Inc. v. HathiTrust, 902 F. Supp. 2d 445 (S.D.N.Y. 2012). 同判決については、作花文雄「Googleをめぐる法的紛争の動向」(本誌2013年3月号)28~31頁も参照。
[18] Authors Guild, Inc. v. HathiTrust, 755 F.3d 87 (2d Cir. 2014). ただし、参加図書館へのデジタルコピーの提供行為に関して審理が尽くされていないとして、一部差し戻し(その後和解成立)。

(6) 本判決

本裁判所は、地裁の判決から約2 年を経た2015年10月16日、判事の全員一致の意見として、Googleの行為がフェアユースに当たるという原審判断を維持する判決を下した。その結論自体は、以下の諸点からすでに予想されていたものであり、特に意外性のある判断ではない。

  • 本裁判所は、今般の判断に先立つ2013年7月、地裁によるクラス認定を取り消す判断の中で、Googleの行為がフェアユースに当たるか否かを先行して判断すべきであるとし、フェアユースが認容される可能性が十分にあることを示唆していた。同判断を全会一致で示したPierre N. Leval判事、Jose A. Cabranes判事及びBarrington D. Parker判事はいずれも、本件控訴審の審理を担当した。
  • 地裁判決はサマリ・ジャッジメントの中で、フェアユース規定の性質を論じる箇所、及び本件への適用を述べる箇所において、上記Leval判事が過去に執筆した論文[19]を引用し、その根拠としていた。
  • 原告らの上訴後、関連事件であるHathiTrust訴訟の控訴審においても、フェアユースを認める判断が示されていた。同判断を全会一致で示した合議体裁判官3名のうち2名は、上記Cabranes判事及びParker判事であった。
[19] Pierre N. Leval, Toward a Fair Use Standard, 103 Harv. L. Rev. 1105 (1990) 【追記】 同論文は、後述するプリティ・ウーマン事件最高裁判決がトランスフォーマティブ・ユース法理を打ち立てるにあたり依拠した論文でもある。

2 争点:フェアユース

本件の争点は、連邦著作権法107条が定めるフェアユースの抗弁の成否である。

107条は、「批評、解説、ニュース報道、教授(教室における使用のために複数のコピーを作成する行為を含む)、研究または調査等を目的とする」フェアユースは著作権を侵害しないとし、その成否を判断する際に考慮すべき要素として、以下の4要素を示している(同条1~4項)[20]

第1 要素 : 使用の目的及び性質(使用が商業性を有するか又は非営利的教育目的かを含む)
第2 要素 : 著作物の性質
第3 要素 : 著作物全体との関連における、使用された部分の量及び実質性
第4 要素 : 著作物の潜在的市場又は価値に対する、使用の影響

[20] 他の箇所も含め、同法のCRIC公表訳(山本隆司による)を参考とした。http://www.cric.or.jp/db/world/america/america_c1a.html#107

連邦最高裁はHarper事件判決[21]において、このうち第4 要素が最重要であると述べる。

[21] Harper & Row Publishers, Inc. v. Nation Enterprises, 471 U.S. 539 (1985)

また、連邦最高裁が「トランスフォーマティブ・ユース」(後述)の概念を確立したことで知られるプリティ・ウーマン事件判決[22]によれば、使用目的の記載はあくまで例示であり、かつ、上記4 要素は「別個独立に扱われるべきではない。全要素が検討され、その結果は共に著作権の目的に照らして衡量されるべきである」。

[22] Campbell v. Acuff-Rose Music, Inc., 510 U.S. 569 (1994)。ソフトウェア情報センター(SOFTIC)が同判決の全文について日本語訳を公表している。http://www.softic.or.jp/lib/cases/Campbell_v_Acuff.html

連邦最高裁が上記事件で特に重視したのは、第1要素である。当該著作物の使用態様がトランスフォーマティブ(transformative:変容的)であるかどうか、すなわち、原作品を変容させ、その過程において「新たな情報、新たな美、新たな見識および理解」を創造することで価値を付加し、著作権法の目的に資する態様の使用であるかどうかが重視される[23]。トランスフォーマティブ・ユースであると認められた場合、フェアユースの成立が推定され、かつ、第4要素における市場への影響の不存在も推定される[24]

[23] マーシャル・A・リーファー著、牧野和夫監訳『アメリカ著作権法』(レクシスネクシス・ジャパン、2008)675頁、Leval at 1107-08
[24] 山本隆司『アメリカ著作権法の基礎知識 第2 版』(太田出版、2008)113~115頁

上記にいう「著作権法の目的」は、究極的には、連邦著作権法の根拠とされる合衆国憲法(U.S. Constitution) 1章8条8項に求めることができる。すなわち、同条文は「著作者および発明者に対し、一定期間その著作および発明に関する独占的権利を保障することにより、学術および有益な技芸の進歩を促進する権限」を連邦議会の権限として定め[25]、著作権法の目的が学術等の進歩の促進にあることを明らかにしている。

[25] 在日米国大使館公表訳による。http://americancenterjapan.com/aboutusa/laws/2566/

なお、フェアユースは積極的抗弁であり、主張する当事者にその立証責任がある[26]

[26] American Geophysical Union v. Texaco Inc., 60 F.3d 913 (2d Cir. 1994)

3 地裁判決及び原告らの主張

地裁判決は、Googleによる著作物の使用が、書籍を包括的な用語索引へと変容させ、読者や研究者らがそれを発見できるようにした点で、高度にトランスフォーマティブであること(第1要素)、かつ、書籍に関する情報を多くの人々の目に触れるようにすることで書籍の販売に貢献していること(第4要素)が、それぞれフェアユースを認定する方向に強く働くと指摘した。そして、Google Booksは書籍の特定・発見などを可能とすることにより、社会全体に利益を与えているとして、フェアユースの成立を認めた。

原告らは控訴審において、大要、以下のように反論した。

  • Googleによる、書籍全体のデジタルコピー行為及びユーザーにスニペットを閲覧させる行為は、いずれもトランスフォーマティブ・ユースに該当しない。Googleが提供するサービスは、無料かつ広告なしであっても、全世界的なインターネット検索市場における優位性から収益を得るという営利を究極の目的としている。
  • Googleは、検索市場において原告らが得るはずの収益その他の利益を奪うことで、原告らの二次的な権利を侵害している。
  • Google Booksは、ハッカーが書籍を無料又は安価でインターネット上で利用可能にするリスクをもたらし、原告らの著作権の価値を破壊している。
  • Googleの参加図書館に対するデジタルコピーの配信は、トランスフォーマティブ・ユースに該当しない。原告らはGoogleの行為により、図書館から得られるはずの著作権収入を失う。

4 本裁判所の判断

本裁判所は以下のように述べて、原審の判断を維持した。

(1) フェアユースに関する一般論

著作権の究極的な目的は、公衆の知識と理解を増大させることであり、著作権は、潜在的な創作者に対し、その著作物の複製に対する排他的支配を認めることによって、著作物を作成して公衆に享受させるためのインセンティブを与えるものである(合衆国憲法1章8条8項)。そのため、著者(authors)は法律上意図された著作権の受益者であるものの、究極的かつ根本的な受益者は公衆(the public)である。そして裁判所は、上記著作権の目的のためにフェアユース法理を発展させた。

しかし、連邦著作権法107条の文言は、フェアユースを認定するための基準を提供するものではない。そこで、前掲プリティ・ウーマン事件連邦最高裁判決は、フェアユース要件の包括的な分析を行っている。

まず、条文の第1文に定める目的については、それらは例示であって、裁判所と議会が最も高頻度にフェアユースであると認定してきた種類の複製に関する一般的な指標にすぎないことを明らかにした。次に、条文が示す4要素は、別個独立に扱われるべきではなく、全要素が検討され、その結果は共に著作権の目的に照らして衡量されるべきであるとした。そして、第1要素(使用の目的及び性質)の重要性を強調した。具体的には、著作物がトランスフォーマティブな目的のために使用されるほど、それは公衆の知識を豊かにするという著作権の目的により貢献し、著作権のある作品の市場機会を縮小させる代替物となるおそれは小さくなるとした。

上記を前提として、本件について検討する。

(2) 検索及びスニペット表示機能について

ア 第1要素(使用の目的及び性質)について

トランスフォーマティブ・ユースの認定に関しては、使用の正当化理由が必要となる。最も一般的に認められている正当化理由は、原作品に対するコメントや批評を行うことである。

ここで、“transformative”という語を、過度に文字どおりに捉えるべきではない。著作権者が排他的支配を有する二次的著作物(derivative works)の定義においても、“transformed”の用語が使われているが、これは小説の他言語への翻訳といった「形式の変更」(change of form)を本質とするものであって(同法101条)、フェアユースにおける“transformative”な目的といったものを含んでいない。

以上を念頭に、本件について検討する。

本件の検索機能については、前掲HathiTrust事件控訴審判決が模範となる。同事件において本裁判所は、「全文検索可能なデータベースの構築は、典型的なトランスフォーマティブ・ユースである……なぜなら、検索の結果が、目的、性質、表現、意味及びメッセージにおいて、かかる結果を引き出した元のページ(及び書籍)とは異なるからである」と判断した。Googleが書籍をコピーした目的は、研究者が興味を持つ語句を含む書籍を特定できるようにするのみならず、それを含まない書籍をも同様に特定することを可能にすることで、当該書籍に関する重要な情報を提供することにある。かかる目的がトランスフォーマティブであることに疑問はない。

もっとも本件は、以下の2点においてHathiTrust事件と異なっているため、さらに検討する。

第1の相違点は、HathiTrustは書籍の内容を一切表示しないのに対し、本件ではスニペットが表示される点である。これは原告らが主張する点であるが、むしろ、スニペット表示は、語句の使用の有無及びその頻度のみを示すというHathiTrustの検索機能に、重要な価値を付加するものである。HathiTrustの機能では、ある検索語句がある書籍で使用されているかどうかはわかっても、それが研究者の関心の範囲内で論じられているか否かは示されず、当該書籍を入手する必要があるかわからない。スニペット表示により、その判断が可能となる。

第2の相違点は、HathiTrustは非営利の教育機関だが、Googleは営利企業である点である。原告らはこの点について、連邦著作権法107条1項が、フェアユースの第1要素として「使用が商業性を有するか又は非営利的教育目的か」を含むと定めていること、及びSony事件[27]最高裁判決が傍論として「商業的利用は……不公正であると推定される」と述べたことを指摘する。しかし、連邦最高裁は前掲プリティ・ウーマン事件判決において、同条に列挙された使用例(批評、解説、ニュース報道、教授、研究又は調査)のほとんどすべては、米国では営利目的でなされるのが一般的であるため、商業目的のフェアユース全般に対するそれほど広範な不公正の推定を「連邦議会が意図していたはずがない」とした。また、同裁判所は、その使用が「トランスフォーマティブであればあるほど、商業性といったフェアユース認定に不利に作用する他の要因の重要性は減少する」ことを明確にした。本件では、Googleのトランスフォーマティブな目的には非常に説得力があること、及びGoogle Booksが本来の書籍の代替物として競合しないことが明らかであることを乗り越えてまで、Googleが全般的に見て営利目的であることが、フェアユースを否定する理由として優先されるべき理由を発見できない。フェアユースとして最も一般的に受け入れられているものの多くは、営利目的で商業的に行われるのが通常なのである。

[27] Sony Corp. of America v. Universal City Studios, Inc., 464 U.S. 417 (1984)

〔原審判断との比較〕
大きな違いはない。

イ 第2要素(著作物の性質)について

同要素が、フェアユースの成否に重要な役割を果たすことは稀である。連邦最高裁は、前掲Harper事件において、「フィクション作品又はファンタジー作品よりも、事実に関する作品(factual works)が頒布される必要性が一層高いことが一般的である」と述べた。しかし、説得力のあるフェアユースの正当性が伴わない限り、事実に関する作品の著者は、フィクション作品の著者と同様、自分の表現に対して、著作権の保護を受ける権利を有するべきである。原作品が事実に基づく作品であるということだけで、他者がそれを自由にコピーできると示唆されるべきではない。第2要素は、トランスフォーマティブ・ユースか否かを評価する場合においては、オリジナル作品が事実に基づいたものであることではなく、オリジナル作品に関する有益な情報をトランスフォーマティブに提供していることを理由として、フェアユースに肯定的に働く。

本件においても、第2要素は決定的でない。原告らの書籍はいずれも事実に基づいたものであるが、それはフェアユースの主張を後押しするものではない。また、仮に原告らの書籍がフィクションであったとしても、本裁判所の評価には影響しない。

〔原審判断との比較〕
原審は、Google Booksにおける書籍の大半がノンフィクションであることが、フェアユースを認定する方向に働くとしていたが、本判決はこのような区別を否定している。

ウ 第3要素(使用された部分の量及び実質性)について

同要素が示すのは、原作品が広範囲にコピーされ、又は原作品の最も重要な部分がコピーされた場合よりも、その少量又は重要性の低い部分がコピーされた場合に、フェアユースに当たる可能性が高くなることである。その理由は、第4要素との関係にある。すなわち、広範囲又は重要部分のコピーであるほど、原作品と競合する代替物として効果的に機能する可能性が高く、原作品の権利者の販売や利益を減少させるおそれがある。

本件の検索機能に関し、Googleは、原告らの書籍全体のデジタルコピーを作成した。しかし、完全なコピーが、トランスフォーマティブな目的を達成するために合理的かつ適切であり、オリジナル作品に競合する代替物を提供しない形態である場合、フェアユースを認める判断が繰り返されている。前掲プリティ・ウーマン事件連邦最高裁判決は、許容可能なコピーの範囲は、コピーされたものがどの程度オリジナル作品の代替物として市場で機能するかにより左右されると述べた。本件では、HathiTrustと同様、オリジナル作品全体のコピーが、Googleのトランスフォーマティブな目的である全文検索のために合理的かつ適切であり、また必要である。そしてGoogleは、当該デジタルコピー自体を表示することはない。そのため、本件の検索機能は、第3要素を満たしている。

次に、本件のスニペット表示機能であるが、問題とすべきは、コピーの作成に使用された部分の量や実質性よりも、公衆のアクセスに供された部分の量や実質性である。Google BooksはHathiTrustよりも、検索者に対してより多くの情報を表示する。検索者が閲覧可能な分量が多く、また、どの部分を閲覧するかについてコントロールを及ぼす範囲が大きいほど、検索者への開示は、原告らの書籍の代替となる可能性が高い。Googleは、実質的にそれを防止するため、スニペット機能に以下のような制限を設けている。

  • スニペットとして表示される範囲は小さい(通常、1ページの8分の1)
  • 1 ページにつき1スニペット、10ページについて1ページが「ブラックリスト」に入り(合計すると書籍の約22%が入る)、永久に表示されない
  • 検索語句1件につき3スニペット、1ページにつき1スニペットを超えて表示されない
  • 同じ検索語句に対しては、検索回数やコンピュータの台数に関係なく、同一のスニペットを表示する
  • 辞書や料理本など、小範囲の閲覧で検索者のニーズを満たすタイプの書籍については、スニペットを表示しない

これらの制限の結果、検索者が長時間の努力を費やしても、オリジナル作品に競合する代替物となるだけの内容は表示できない。現に、原告ら代理人は、複数のリサーチャーを雇い、数週間にわたり検索を繰り返したが、いかなる場合でも全文のうち16%以上にアクセスできたことはなく、また、収集されたスニペットは通常連続せず、書籍全体にランダムに広がっていた[28]

[28] 本裁判所は傍論として、仮に書籍全体の16%に相当する一貫性のある文章の固まりを表示できるならば、評価が異なりうることを示唆する。

〔原審判断との比較〕
原審では、書籍全体をコピーしたこと自体がフェアユースの認定にわずかに不利に働くとしたが、本裁判所はそのような評価をせず、現に代替物として使用される可能性のある範囲について、その分量や実質性を考慮している。

エ 第4要素(潜在的市場又は価値に対する影響)について

前掲プリティ・ウーマン事件連邦最高裁判決は、同要素が最重要の要素であるとし、また、第1要素との関係で、コピーが原作品の目的と異なる目的を達成するために行われるものであるほど、そのコピーは原作品の代替物として機能する可能性が低くなるとする。しかし、たとえコピーの目的がトランスフォーマティブなものであるとしても、コピーの使用によって原作品の重要な箇所が広範囲に開示された場合、使用されたコピーは競争力のある代替物として、原作品の価値を損なうおそれがある。

本件においては、スニペット表示が、前記トランスフォーマティブな目的でなされるにもかかわらず、上記のような影響を生じるかが問題となるが、現在の仕組みである限り、当該影響はない。書籍の通常の購入価格は、ランダムに散らばったスニペットの組み合わせを入手するために必要なコストと比べて安価であるから、スニペット機能は検索者に対し、効果的かつ競争力のある代替物(effectively competing substitute)へのアクセスを提供していない。また前記のとおり、現に、仮に検索者が大きな労働力を投入しても、全体の16%以下の断続的で小さな断片の情報しか入手できない。

スニペット機能は、検索者のニーズがスニペット表示によって満たされ、書籍の販売意欲が失われるなどして、その販売機会を多少(some)減少させる。もっともそれは、第4要素を権利者の有利に用いるには不十分である。有利に用いるためには、オリジナル作品の潜在的市場又は価値に対する有意な又は重要な影響がなければならない。そもそも検索者のニーズを満たすスニペットの情報には、著作権により保護されていない情報(歴史的事実など)が含まれる。単独のスニペットの簡潔さ、スニペットの集合の連続性のなさ等から、書籍中の著作権で保護された側面に対する検索者の関心が、スニペット表示で満たされる場合は稀である。

〔原審判断との比較〕
原告らが控訴審段階で追加提出した調査結果に関する考慮が追加されているが、大きな違いはない。

以上のとおり4要素について検討した結果、Googleが、公衆に対して原告らの作品を提供する目的のために、原告らの作品の完全なデジタルコピーを作成し、検索機能及びスニペット表示機能と共に提供する行為は、フェアユースに当たる。

(3) 検索及びスニペット表示における二次的権利について

原告らは、連邦著作権法106条2項(二次的著作物を作成する権利)に基づき、原告らが検索機能及びスニペット表示機能に関して有する二次的な権利について、その独占的市場をGoogleが奪ったと主張する。しかし、この主張は認められない。

同法101条は、二次的著作物(derivative works)とは「著作物を改作し、変形しもしくは翻案した形式」であるとし、具体的な態様として「翻訳、編曲、脚色、小説化、映画化、録音物、美術複製、抄録、要約」を例示する。この定義は、不明確ながら、上記権利が及ぶのは、オリジナル作品の著作権が保護する側面を再提示する場合であることを強く示唆する。

本件においては、仮に原告らの主張が、自らの書籍をGoogleがデジタル形態に変換し、当該デジタル版を公衆に提供していることを根拠とするならば、当該主張は強いものとなるだろう。しかしGoogleは、スニペット機能を通じて非常に限定的な情報へのアクセスを認めているにとどまる。これは、検索語句が使用された文脈を示すには十分だが、著作権で保護された表現の代替物を提供するには不十分なものである。二次的著作物の法令上の定義、又はその根底にある論理のいかなる部分も、本件の検索機能によって伝達されるような、作品に関する情報を提供することについて独占的な権利が生じることを示唆しない。

〔原審判断との比較〕
原審段階では争点となっていなかった。

(4) ハッキングのリスクについて

原告らは、Googleによるデジタルコピーの保管は、ハッカーがそれにアクセスして書籍を広く利用可能にするリスクをもたらすと主張する。

確かに、著作物の二次的使用の過程で、当該使用者が、(意図していなかったとしても)オリジナル作品を購入する代わりとして当該二次的使用されたものを用いる機会を公衆に与えた結果、著作権の価値を破壊した場合、フェアユースの主張に対する実質的な反論となりうる。しかし、本件においては、原告らによる立証がない。

Googleは、デジタルコピーが公衆によるアクセスから遮断されたコンピュータに保管され、Googleが自社の秘密情報保護のために使用しているのと同一のセキュリティ手段により保護されているとする書証を提出した。Googleが指摘するとおり、原告側のセキュリティ専門家も、Googleが当該保護を可能とする「豊かな資源と一流の技術者を持っている」と述べた。Googleはこれらにより、フェアユースの主張に関する本側面の立証責任を果たし、原告らへと立証責任を転換させた。

これに対し、原告らは、Google Booksから情報が抜き取られた事実を示せなかった。また、原告らは、GoogleがSEC(証券取引委員会)に対し、2012年7月、法的に義務付けられた潜在的市場リスクの開示として、「第三者、従業員のミス、不正その他の理由による……セキュリティ侵害が同社を損失のリスクにさらす可能性」を申告したことを指摘するものの、これはGoogleの慎重な認識を示したにとどまるものであって、Googleが講じる効果的な手段に対する反証としては不十分である。

〔原審判断との比較〕
原審では、「アタッカー」が書籍を入手しようとしても、スニペット機能を通じて書籍全体を入手することが不可能である、という限度で言及があるにとどまり、本論点は争点化していなかった。

(5) 参加図書館へのデジタルコピー頒布について

原告らは、Googleが参加図書館に対して書籍のデジタルコピーを頒布する行為はフェアユースに当たらないと主張する。

しかし、Googleと参加図書館との間の取り決めの本質は、Googleが、図書館が供出した蔵書のデジタルコピーを作成した上で、図書館が当該デジタルコピーをフェアユースの態様で使用することを認める、というものである。参加図書館は、自らの蔵書のデジタルコピーを用いて、Google Booksと同様の検索を可能にすることを企図している。Google・参加図書館間の契約は、各図書館に対し、著作権法に矛盾しない形態でのみデジタルコピーの使用を認め、公衆にデジタルコピーが頒布されることを防止するための対策を講じるよう約束させるものである。

この状況下において、Googleが参加図書館のために、その蔵書のデジタルコピーを作成する行為は、著作権を侵害しない。仮に各図書館が、フェアユースとなる検索サービスのために自らデジタルコピーを作成した場合、その行為は著作権を侵害しないであろうし、そうであるならば、各図書館がその作成作業をGoogleに依頼する行為もまた、著作権を侵害しない。

これに対し、原告らは、参加図書館がGoogleの作成したデジタルコピーを著作権侵害の形態で利用する可能性を指摘する。たしかに、Googleの認識又は推奨行為によっては寄与侵害(contributory infringement)が成立しうる。しかし証拠上、各図書館が当該デジタルコピーを悪用する可能性は全くの憶測にすぎず、Googleの寄与侵害を認める根拠はない。

また、原告らは、参加図書館が当該デジタルコピーを不注意に取り扱い、又は保護を怠ることにより、当該デジタルコピーがハッキングに対して不当に脆弱な状態に置かれる可能性を指摘する。しかし、これも推測に基づく可能性にすぎず、Googleの責任を問う根拠はない。

〔原審判断との比較〕
原審は、参加図書館への提供行為もフェアユースに該当すると判断したが、本判決は、参加図書館がフェアユースに当たる行為を実施できるようにする行為は「著作権を侵害しない」とした。本論点の文脈では、現にデータを使用するのは各図書館であるため、Googleの行為がフェアユースに該当するか否か、という問題の切り分けはあまり適切でないとの考慮が働いたと思われる。

(6) 結論

以上のとおりであるから、Googleによる書籍のデジタル化、検索機能の創造、及びスニペットの表示は、いずれもフェアユースに当たる。また、Googleの参加図書館に対するデジタルコピーの提供は、著作権侵害を構成しない。原判決を維持する。

5 総評

本裁判所は、検索及びスニペットの各機能がトランスフォーマティブな目的を実現するために合理的かつ適切なものであること、各機能がオリジナル作品を代替しないことを主たる根拠として、Google勝訴の判断を下した。原審との比較では、特にフェアユースの第3要素との関係で、デジタルコピーの作成行為そのものではなく、その後の利用行為の際に著作物がいかなる形で使用されるかを重視した点が注目される。

6 連邦最高裁への上訴申立て

原告らは2015年12月31日、連邦最高裁判所に対し、裁量上訴令状(writ of certiorari)[29]の申立てを行った[30]。同申立ての中で原告らは、本裁判所におけるフェアユース法理の解釈の誤りを主張し、各巡回区における同法理の解釈を統一することの必要性を訴えている。連邦最高裁が同申立てを受理するか否かは、本稿執筆の時点では不明である。

[29] 連邦控訴裁判所の終局判決に対する上訴の仕組みであって、連邦最高裁はその自由な裁量により、上訴を受理して審理するか否かを決定する。慣例により、9人の判事のうち4名以上が支持した場合に上訴が受理される。
[30] https://www.authorsguild.org/industry-advocacy/authors-guild-petitions-supreme-court-to-rule-on-googlecopying-millions-of-books-without-permission/

【以下追記:その後の展開など】

連邦最高裁は2016年4月18日、原告らによる裁量上訴の申立てを受理しない決定をしました。その判断は「The petition for a writ of certiorari is denied.」という大変シンプルなものであり、理由への言及はありません。

これをもって、原告らによる提訴から10年余を経たGoogle Books訴訟は、Googleの勝訴という形で終結しました。

(ここからは私事です)

小職は、本件のクラスアクション和解案が全世界的な話題となった2009年1月ころに弁護士として執務を開始しましたが、その直後に複雑怪奇な同和解案と格闘することとなりました。日本書籍出版協会向けの解説講演(4月)と、NBL誌への解説記事の執筆(5月)をすることとなったためです。当時は想像もしていませんでしたが、それ以来、結局7年にも亘って本件を追い続けることとなりました。

その間、本件への政府としての対応を検討する必要から経済産業省への出向(2009年9月~2010年3月)を経験し、それを足掛かりとして様々な経験を積むこととなります。本件が小職の最初期のキャリア形成に大きな影響を与えた事件であることに疑いはありません。奇しくも小職の米国留学中中に本件が終結を迎えたことは、たいへん感慨深い出来事でした。

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